16.人生は気の持ち様でうんと得をする
心暗きときは、すなわち遇うところ ことごとく禍(わざわい)なり。
眼(まなこ)明らかなれば、途(みち)に触れて皆宝なり。
お大師さまのお言葉です。
要するに、人は気の持ちよう、心の有りようひとつで得な人生を送れますよ、
ということです。
人生のそのほとんどは苦労、苦難の連続です。
まあ、当たり前といえば当たり前なのですが、人というものは苦しい立場になるとバタバタとさらに自分を深みにおとしいれてしまうものです。
ついていない状況に嘆きと不満をつのらせ、それがまた呼び水となって立ち上がれなくなるまでになってしまいます。
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かつてお釈迦さまは世の無常を憂い出家を志します。そのうち神通力や人間離れした力を身に付けようと数年にわたる難行、苦行を行いますが身体は栄養不良でやせるばかり、一向にその成果は身につきません。
もう、死ぬかというときに村娘から温かい熟成乳を施されます。
それによって体力も満たされ心身ともに安定したその時、ひとすじの光明が射したかのように悟りを得ました。
しかし、その悟りはなにひとつ難解なものではありませんでした。まさしく当たり前のことに気付いただけなのです。
生身の人間にとって大切なものは神通力や超能力などではなく現実を直視してそれに立ち向かう勇気を知恵を持つことだと気付かれました。
今、この身に苦難が訪れたのならまずそれを受け止め、自身の力の範囲でどう対処したらよいのかと知恵を出すことが大切であると直感したのです。
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病気になれば病人であるいまの自分を受け入れ、病と共に歩きながらやがて離れる機会を作るように無理なく無駄なく前を見て生きていけば、それがいちばんよい方法だとされたのです。
お大師さまはこのことをご自分のお言葉にされて、何事も後ろ向きに考えていればいつまでもそれが足を引っ張ることになり、この限られた人生においてまことに勿体ないことだと説かれているのです。