8.発想の転換~何事も吉兆への道しるべとみる
むかしむかし、あるところに山寺がありました。元旦早々お客さんが新年の挨拶にやってきましたのでお坊さんはさっそく座敷に案内しました。
お客がふと床の間を見ますとぞうきんが置いてあるのに目がとまりました。何と正月から縁起の悪いことか……と思っていますと当のお坊さんも気付いたようでした。するとニコニコ笑いながら、
ぞうきんを 当て字に書けば 蔵と金
あちら ふく ふく こちら ふく ふく
と歌いました。これを聞いたお客さんもさすがのトンチに感心して気分を直したのでした。
○ ○ ○
やがてお坊さんは用意してあったお酒をすすめようとした時、にぎったどびんを膳の角にぶつけてしまいました。どびんは見事に割れてお酒はこぼれてしまったのでどうしようもありません。
お客さんもため息です。金物で出来たどびんのつるだけをにぎったままお坊さんはまた一句歌います。
元日や どん(鈍) と ひん(貧)とが
底ぬけて わが手にのこる 金のつる
すぐに新しいどびんで酒が用意され飲み始めました。
お酒もずいぶんと進み、お客もそろそろおいとましようと思ったその時です。何のはずみか、床の間の棚に置いてあった大黒さまが落ちてきましてその腰がとれてしまいました。
お坊さんここにきて、待ってましたと言わんばかりの笑顔で歌いました。
元日や 棚に上げたる 大黒も
どんとや落ちて 腰がぬけ
もうよそには 行くまい
いや、お見事! 座布団三枚です。
(宮崎県に伝わるむかし話から)