光野浩一、某日の記憶のかけら。月一回、一日分のみ掲載。




Nov.14th.2008




前列の客が口々に何か言っている。一瞬体が宙に浮き、持っていたカップのコーヒーがぶちまかれる。


乗車していた高速バスの、まさかの衝突。相手の車両はすぐ横に転がり、赤黒い液体を垂れ流している。
居眠り運転だの、逆走だの、流血だの、勝手を言うな。じゃあ窓の外に居るのは誰だ?なぜこの程度で済んでいる?

意外な程冷静な自分に驚く。


渦中に居ながら何も判らない、ということはあるものらしい。
きっと死ぬ時は何も知らないまま死ぬし、そうでなくとも何も知らずに生きているのかも知れない。


そういうことがある、判ったのはそれだけ。


(*走行車線に停車していたトラックに衝突、死傷者なし、ということが後日分かった。救急車の出動なし。救援は2時間後。赤黒い液体?もちろんオイル。)