あとに残された悟空とパンは,しばらく二人の消えたほうを眺めて呆けていたが,
「ま,いっか!」
というと,悟空がパンをひょいと抱え上げ,
「さ,帰ろうぜ」
と言って,何事もなかったかのように家路についた。
「悟天! 待てよ!」
トランクスは必死で悟天の後を追うと,腕を掴んで自分のほうへ引き寄せた。
「離せよ!!」
悟天は抵抗するが,この間のようになにがなんでも逃げようという感じではなかった。
「話くらいさせてくれよ!!」
トランクスが声を荒げると,ようやく悟天の動きが止まった。
「話って・・・なんだよ」
悟天はやはり,トランクスと目を合わせようとはしなかった。
「悪かったよ・・・この間は・・・・・・」
「・・・・・・」
「オレ・・・あんなつもりじゃなかったんだ,ただ・・・」
ただ,なんだよ。
そんな表情で,悟天はトランクスのほうを見た。
「・・・・・・悪かったよ・・・」
トランクスは,結局そう繰り返すことしかできなかった。
悟天に会ったら,言おうと思っていた言葉をいろいろと用意していたはずなのに。
悟天の顔を見たら,頭が真っ白になって,何も思い浮かばなかった。
「悪かったって・・・どういう意味だよ」
悟天が言葉を返す。
どういう意味と言われても・・・・。トランクスは何と言っていいのか分からなかった。
「あんなつもりって,どういうつもりだよ。ただなんとなく?」
「ご,悟天・・・」
「ただ・・・ただなんとなく・・・・・・そういうことしたくて・・・,
たまたまボクがそこにいたから?」
「え・・・? 何言ってんだよ悟天・・・」
「だれだってよかったんじゃないの!? あのとき・・・隣りにいたのがボクじゃなくても・・・」
トランクスを目の前にしてまくしたてているうちに,悟天の,自分でも気づかなかった,
トランクスにももちろん予測できなかった本音が思わず飛び出した。
「悟天・・・おまえ・・・・・・」
トランクスも混乱していて,事態をよく飲み込めなかった。
あの日のトランクスの行動に対して,悟天が怒っているのは確かだったが,
自分が予想していたのとはどうもニュアンスが違う。
「誰だって良かったなんて,どうしてそう思うんだよ」
「え,だって・・・」
「オレ,あの時言ったじゃないか! おまえだから,したかったって・・・」
トランクスのその言葉に,悟天は拍子抜けしたような表情になった。
「おまえ・・・それで怒ってたのか・・・?」
悟天がうつむく。
もちろん,最初は驚きと,単純に腹が立っていただけだった。
けれど,日が経つにつれて,自分では気づかないうちにそれは複雑なものへと変化していった。
「だって・・・」
「誰でもいいなんて,そんなわけないだろ」
「そんなの・・・わかんないじゃないか!」
「わかんないって,どうして」
「・・・・・・言わなきゃ・・・わかんないだろ・・・・・・」
「言わなきゃって・・・」
トランクスは,その時点でハッとして,赤面すると左手で口を押さえた。
思わず口の端がゆるみそうになる。
それを必死に押さえながら,ゆっくりと悟天を引き寄せ,背中に手を回すと,優しく抱きしめた。
そして,しばらくその温もりを確かめた後,耳元に唇を寄せると,
微かな,悟天にしか聞こえないような声で囁いた。
「・・・悟天・・・・・・好きだよ」
悟天もそれに応えるようにトランクスの背中に手を回しかけたが,
一瞬躊躇すると,わきの辺りで動きを止め,そのままトランクスの服をためらいながら握りしめた。
そしてトランクスは,少しだけ顔をずらすと,悟天の額に自分の額を軽く触れさせ,
悟天の反応を確かめながら,ゆっくりと唇を重ねた。
今度こそ,悟天は拒まなかった。
まだ慣れていない口づけは,どこかぎこちなかったが,それゆえの甘さがあった。
やがてトランクスは唇を離すと,再びしっかりと悟天を抱きしめた。
「食べちゃいたい」
そう言うと,トランクスはお腹の底からクスクスと込み上げてくる笑いを押さえることができなかった。
「・・・え・・・・・・?」
「おまえを,全部食べちゃいたい」
「バカ・・・・・・」
悟天が,トランクスの胸に顔をうずめる。
トランクスの顔をまともに見ることができなかった。
「・・・だからキスってするのかな・・・・・・」
独り言のようにトランクスがつぶやく。
「え・・・? だから,ってなんで・・・?」
それに反応して,悟天が顔を上げた。
「食べちゃいたいって,思うからキスするのかな」
「し,知らないよそんなの・・・」
言いかけた言葉をさえぎるように,再びトランクスの唇が悟天の口をふさぐ。
いつまでも,そうしていたかった。
上空の風が,木々の梢を揺らし,二人の元へ緑色のゆらめきを運ぶ。
今は,そうしているだけでよかった。
あの日の焦りが嘘のように,穏やかな気持ちで,トランクスは悟天を抱きしめていた。
お互いの鼓動が服の上からでも伝わる。
抱き合っているうちに,その鼓動が徐々に重なり,ひとつになっていくようだった。
「・・・好きだよ・・・・・・」
重なる唇の端から,トランクスがもらす。
悟天は,両腕をためらいがちにトランクスの背中に回す事でそれに応えた。
トランクスの腕にも力がこもった。
何度言っても足りない。トランクスはそう思って,この愛しさをかみしめていた。
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