「あれ? トランクス,来てたのか」
沈黙を破ったのは,ちょうど学会から帰ってきたのか,
スーツを着て,右手に資料の入ったアタッシュケースを抱えた悟飯だった。
「なんでこんなところでおかあさんと立ち話なんかしてるんだ?」
と言ってから,悟飯はその場に流れる気まずい雰囲気を察した。
悟天の様子がここのところおかしいのは悟飯も知っていたし,
トランクスの様子からいって,原因がトランクスにあるということも
なんとなく推測できる。
「悟天と話に来たのか?」
「ええ,まあ・・・」
「でも,悟天ちゃん,部屋から出てこようとしねえだよ。トランクスもわけを話そうとしねえしよ。
おらにはなにがどうなってるのかさっぱりだ」
チチがため息をつきながら言う。
「そうですか,じゃあボクがちょっと話を聞いてみますよ」
チチには話せなくても,トランクスが幼い頃から兄のように慕っている悟飯になら,
何か話せるかもしれない。チチもそう思ったので,悟飯の言うとおりにした。

「一体,なにがあったんだ? おまえたちがこんなになるなんて」
悟飯の口調はチチよりも遥かに穏やかだったが,
それでもやはり,本当のことを言うわけにはいかなかった。
「ケンカ・・・っていうか・・・・・・オレが一方的に,悟天のこと・・・傷つけちゃって・・・」
「そりゃまたどうして・・・」
「そ,それは・・・」
悟飯に対して,適当に誤魔化すなんてできないし,トランクスはそうするのは嫌だったので,
再び沈黙するしかなかった。
「まあ・・・何があったか,言いたくなければ言わなくてもいいけどさ,
別に悟天をわざと傷つけようと思ってたわけじゃないんだろ?」
「そりゃあ・・・!」
「そうだよな・・・だったら,悟天の気持ちが落ち着くまで待ってから,
 もう一度謝りに来ても遅くはないんじゃないか?」
「・・・・・・」
ただのケンカなら,それで済むかもしれない。
けれど・・・あんなことをしてしまって,仮に悟天の気持ちが落ち着いたとしても,
許してもらえるかどうか・・・。
「まあ,何があったか知らないけどさ,小さい頃からあんなに仲が良かったんだ,
いまさら何があったって,そう簡単に壊れるような関係じゃないだろ?」
悟飯は何があったって,という部分を特に強調して言った。
相当深刻な様子が見て取れたので,それ以上追求はしなかった。
トランクスは,そんな悟飯の配慮が嬉しくはあったが,
誰にも相談する事ができない苦しさを思うと,どうしようもなくやるせない気分になった。

悟天に会うことができない日々を,こんなにも苦しいと感じたことはなかった。
ただ会えないというだけならまだいい。
自分の行為に対して,悟天が一体どう思っているのか。
あのときの悟天の反応を思い出すと,考えるだけで恐ろしかった。


それからまた数日ほどしたある日,悟空は悟天を修行に連れ出した。
相変わらず元気のない悟天を,さすがの悟空も心配したらしい。
普段は修行というと,なにかしら理由を作って逃げてしまう悟天だが,
悟天自身,ずっと胸につかえているものを少しでも晴らしたいという気持ちがあったのだろう。
この日は珍しく素直に悟空の言うことを聞いた。
悟空は最近,修行には必ず孫のパンを連れて行く。
パンはまだ4歳になったばかりだったが,悟空を祖父に,悟飯を父に持ち,
母親のビーデルも人間にしては相当の腕の持ち主だけあって,戦闘のセンスは抜群だった。
悟天も,わずか7歳で超サイヤ人になれただけあって,非凡な才能を持っていたが,
姪にあたるこの少女には,押されることもしばしばだった。
パンは修行が楽しくて仕方がないといった様子で,悟空とともに毎日のように修行しているのに対し,
悟天はなにかにつけサボってばかりいるということを考えれば,それも無理のない話だが。

悟空やパンとともにしばらく汗を流すと,なんとなく気分がすっきりしてきたような気がした。
「今日はよくがんばったな,悟天。そろそろうちに帰るか」
悟空にそう言われて,悟天は久々に笑顔を見せた。
「じいちゃん,もう帰るの〜? 私まだがんばれるよぅ!!」
いつもなら自分が褒められるところで,悟天が褒められたので,
自分にも声をかけてほしくなったのか,パンはそんなことを言いながら,
悟空の足にまとわりついた。
「はっはっは,パンもがんばりやだなぁ・・・あれ?」
足元にいるパンの頭を撫でて笑っていた悟空が,ふと空を見上げた。
悟天とパンもつられて顔を上げる。
その視線の先にいたのは,トランクスだった。
悟天の表情が瞬時に変わる。
「よう! よく来たな,トランクス」
「おとうさん,知ってたの!? トランクスくんが来るって」
「いやあ・・・オラ知らねえぞ」
パンは悟空の道着のすそをつかんだまま,キョトンとした顔をしている。
悟天はトランクスの顔から目をそらして,トランクスが来た方向とは逆のほうへ飛んでいってしまった。
「悟天!!」
トランクスがあわてて後を追う。
二人は,裏山の更に奥のほうの山へと消えていってしまった。


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