Past days 2002

2002年某日の記憶の欠片

2002

Jan.19th.2002

ここに迷い込んでどのくらい経つ?

声を上げようとも見上げる者などない。

この陳腐な地方都市のアーケードの上

ガラス一枚隔てたこちらに

異形の調度 奇異なる音楽

香の香たちこめる魔窟があるなど誰が知ろう?

囚われの明日や如何に…


車間を空けて停まる者、罰すべし。

長旅の果て、暫しの空想を許せ。

 

 

Feb.23rd.2002

タンク車に映るときわ通り。
水面の波紋に世界を知る。

植物ごときの無差別レイプは腹立たしいが、
子供の創作パワーは愉快・痛快。 


(この夜、この街にFantastic Plastic Machineがやってきた!)

裏腹に親切な強面のCLUB-KIDS。

こんなに素晴らしい音楽がまだまだあるなんて!

まだ知らない!

まだ生き足りない!

 

 

Mar.27th.2002

福岡。獏はすぎもりさんの結婚パーティー準備で貸切り。
簡単な調べ物を済ませ、コーヒーを頂いて挨拶もそこそこに失礼する。
ふと思い立って手に入れた杉浦茂『猿飛佐助』。
物心ついて初めて読んだ漫画だが、復刻版はシュールな毒気が
ざっくりカットでがっかり。(いや、それでも充分面白いんだけどね。)
気に掛けているものに巡り会うという経験は幾度となくあるが、
回顧展の情報を目にして興味深々。
反面、吉増剛造の詩集は買いそびれた! 


携帯の着信は萩原さんから。都城で桜島展の打ち合わせをすることに。

ここに来るとよく歩く。そしてコーヒー漬けになる。

 

 

Apr.28th.2002

桜島 マグマ・プロジェクト初日。

雨漏り対策に苦闘するも、ようやくブース完成。
今日からひとりの観客として楽しめる。

少年時代、漂着物で秘密基地を作ったこの地で
今、こういうものを作っている不思議。

見せたくないあたりをすべて晒した気がするが、
野外展に関わるということは元来、そういうことも込みなのだろう。
細かいことを言ってもしょうがない、と思える空。


暖かくスパイシーなチャイ。
アフリカン・パーカッションがいつまでも鳴り響く。

 

 

May.26th.2002

桜島 マグマ・プロジェクト最終日。

フェリー上から停泊中の潜水艦が見える。
憧れたこともあったっけ、と眺めていたら、 他愛ない昔話が脈絡なく頭を過ぎる。

雪合戦で失くした腕時計の行方。

あいつが飲み込んだ言葉。

実家に何度も電話をかけてきた偽名の女の子。
一体誰だったんだろう?


ドラマは神の視点。
ノンフィクションを地で行くわれら、 心の奥底、謎は澱のように。


実は、海より陸のほうがはるかに広い。

 

 

June.30th.2002

M・A・Pの宿題を気に掛けながらカフェで朝食。先々週のここでの出来事が思い出される。

キャップを被った初老の男。店中響く大声。
ほぼペアルックの相手は太鼓持ちか?

パリは自分の庭だの、印象派が人気だの。
引用作家はピカソ、ゴッホ、アダムス、山下清にとどめはヒロ・ヤマガタ。
おまけにピカソ、ゴッホはキチガイ(そのまま引用)だから常人と違う見え方なのだとか。

若い頃なら喧嘩のひとつも売ったろうが、見事なまでの俗物根性には苦笑する他なかった。
しかし美術ならびに美術家にとってのイメージダウン、打ち遣っていて良かったか?


いや、蒸し返してしまったのは、M・A・Pに対するラスボスみたいな立場かな、という勝手な想像から。

いろんなひとがいる。

 

 

July.27th.2002

M・A・Pのアート研修旅行。
台風の影響は考えたろうに、確認なんか誰もしなかった、と笑うMさん。
いや、このひとたち、旅の楽しみは無茶込みだとハナから思ってやすゼ。
時折の風雨もなんのその、アートの森を見渡す目は虫籠を持った少年のそれだ。

球磨工業高校見学。
中国奥地にこんな集落があったか。どこかでキリコの少女が輪っかを走らす。
異星に降り立った僕らを誰かが見ている。
奥底にある懐かしさを辿れば、やはりの『象設計集団』。

こんな学校の日常とはいかに?のつぶやきにきっとフツウですよ、とIさん。
うん、肩透かしを食らうほどそうなのだろうね。


石水寺。床一枚、壁一枚で地獄。

近すぎて見えないものはまだまだあるのだろう。

 

 

Aug.17th.2002

 

今日、夏が終わった。
朝の空気で知る。


何故かよく泣けた夏だった。
ボサノヴァの優しい対訳に。古人の色彩に対する命名の妙に。
昔の手紙や節操なく観たたくさんのビデオ、数々の歌にも。

祈りが人を人たらしめる。
その確信は日々強くなる。

しかし高速バスで『初恋の来た道』は反則だろう!?

 

 

Sep.17th.2002

間も無く逝くと判っていたその人に、何も言えないままだった


「お元気ですか?」「はやく良くなってください」「ご自愛ください」

どれをとっても軽薄な言葉

ささくれは喉深くに刺さったまま



熱を失ったその人の肉体/生き生きと輝くスナップの影

どちらがリアルと言えるのだろう


寿ぎのクリップアートを絶え間なく滲ませる遺品のワープロ



闇深い極寒の駅、コートの襟越しにひとり見た灯りに似る

 

 

Oct.28th.2002

疲れているんだろう。

ボウモアの鼓動を押さえ込むように寝ていた。
もう何年も夢を見ない気がする。



ひと区切りというよりは、今しか休めないからといった強制終了。

変な休日。返却期限の迫ったSTEELY DANを思い出して聴きながら
昔見たドラマの不気味なオープニングや、CHATRの情報をリサーチしたりする。

午後は買い出し。

鼻先で車線変更やら駐車場を塞ぐやら。御老人方、勘弁してよ。

リラックスも難しい。

 

 

Nov.25th.2002

「あの事件のあと、作れなくなったんじゃないか」

そう思われていたらしい。
前回の個展との間には例のテロを挟む。


誰しも人類の良心を疑い、ものづくりの意味を問うた。

個人内の感傷に向き合い、他者との繋がりを細々と探る自分の立脚点など、
軽く吹き飛ばす事件が起きてしまった。自己も他者も文化も無い。みんなまとめて灰になってしまうのだ。
言われる迄も無く、ショックは大きかった。かと言って、立ち止まることもできなかった。

結局、作ることでしか何も確認できない自分。
ちっぽけな心の震えを感じ取ることから、ひとが繋がる可能性を紡ぎたい。それを諦められない。

あなたにもわかるでしょう?


2年ぶりの福岡展。他の作家との対話から。

 

 

Dec.27th.2002

何気に開けた歯医者のドアから急展開。

まさかの全麻手術と入院。

『切歯間嚢胞摘出』

クリスマス・イヴに生まれたピンクの子海月、小瓶に泳ぐ 。

世界が幸福な夜、ひとり血を吐く退屈。



知覚器官の直中で息を潜め

同じ齢を重ねてきた

  私の中の見知らぬ外界。