電 車 で G O !

亜久津の家は俺の家より遠いらしい。
偶然、乗り合わせた電車から色んな事を推測して、そんな結果を弾き出した。
ざわざわとした空気と一緒に電車に乗り込むとあからさまにポツンと開けた空間が今日も目に入る。
言わずと知れた亜久津仁その人。
どうした事やら、いつもは綺麗に立ててある髪が下りてはいるものの、電車のケチな照明でも輝いて見える銀髪と山吹の無駄に目立つ白ランでは人違いですと言うほうが無理な話なようだ。
しかも鋭い雰囲気は変わりがないから誰も傍に行こうとしない。
それでも朝のラッシュ時には構っていられないらしく、一緒に乗り込んだ人達から何の気なしに押されて、いつもの位置へと立つ羽目になる。
そう、亜久津の真ん前という立ち位置。
同じ白ランを着てれば、仲間だとか、そういう風に見られてもしょうがないんだろうけど。生憎、俺と亜久津には千石という接点になるヤツはいても「友人」という繋がりはない。
なのに、身長が近いせいで向き合うと、かなりのドキドキ感を強いられる距離だったりする。
そうして今日もまた、何ひとつ喋ることもなく学校最寄の駅まで行くのかなんて考えていたら。
「・・・好きだ」
ポツリと呟かれた亜久津の声が聞こえて来て。
意味もわからず視線だけで彼の人を窺ってみれば、下ろされた髪で遮られて、何処を見ているかなんて皆目見当もつかない。
数秒考えて、気のせいだと思うことにした。
だって、ありえない。
でも。
初めて近くで聞いた亜久津の声は低いけれど耳朶に馴染みやすいもので。
呟かれた口調と言葉は甘く響いて、いつもとは違う動悸を感じてしまった。
自分が言われた訳でもないのに、何ドキドキしてるんだ。
馬鹿だなぁ、とか自嘲したその時。
「好きだ」
さらりと流れた銀髪の奥から俺を見据える、薄い茶灰色の瞳。
じっと見詰められて呼吸がおかしくなった。
駅に着くまでの間、なんて答えればいいのか言葉を探す。
夏のせいじゃない熱に浮かされた頭じゃピタリと来るようなモノなんか見つかる筈もなく。
ただ、微かに触れ合ったままになっていた熱を放っている手から熱い手へと、今のこの俺の気持ちが伝わればいいと思った。