片 恋

「俺さ、好きなヒトいるんだよねぇ」
お昼休み、部室で南と『部長&副部長』ミーティング。
とは言っても大したモノでもなく、普通に世間話しながらお弁当食べてることが多かったりする。
校内でのくだらない噂話が途切れた時。
思いついたようにそう口に出した。
ちょうど卵焼きを口に放り込んだ南がもごもごさせながら、きょとんと俺を見る。
「・・・へぇ〜・・・」
「・・・・・・何、その気のない返事」
「あーいや、まぁ?」
「だから何」
目を泳がせつつ訳のわからない返事をごにょごにょ言う南を見やれば。
視線が絡む前にすっと外されて。
「それって俺の知ってるヤツなんだろ?」
「うん?」
「で、言えないヤツなんだろ?」
「え」
「おまえの性格上さぁ俺の知らないヒトだったら遠慮したいくらいあれこれ話すと思うし、名前を言えるヒトだったら誰々カワイイよね!とかいつも言いそうだし」
「・・・・・・あぁ、まあね」
「だろ?言いたくないっていうか言えない相手なら俺は『そうか』としか言えないだろーが」
「・・・・・・うん」
そうだね。
いくら南が相手でも俺の『好きなヒト』の名前は口に出せない。
いや、南だからこそ口に出来ない、と言ったほうが正しいのか。
何故なら俺の心を占める、そのヒトは。
「恋ってさーもっと楽しいモノだと思ってたよ」
「・・・・・・ツラい?」
「うーん。ツラくないと言えば嘘になるけど、でも気持ちは大きくなるばっかなんだよね」
この気持ちが届けばいいなと思う。
でも口に出したら、俺の『苦しさ』がそのヒトに移るだけだろう。
そんな『好き』という感情なら俺は押し殺す方がマシだから。
伝えられないんだ。
「俺は、言ってもいいと思うぞ」
「南」
「うん、当事者じゃないから言えるんだって言いたいんだろ?」
「・・・・・・」
「けどな。だからこそ見えるモノってあるんだよ」
「南?」
何かを知ってる南のその口ぶり。
思わず、じぃっと見詰めると苦笑されてしまった。
手が伸びてきて俺の髪をくしゃりと撫でる。
「・・・・・・うまく行くといいな」
ちいさく笑って南はそう言った。
もしかして南は気付いてるんだろうか?
俺の『好きなヒト』に。
「じゃないと隣にいる俺のが、おまえの熱視線に焼き殺されそうだ」
「南!」
ぎょっとなった俺を見て、今度こそ南はゲラゲラと笑い出した。
目を白黒させている俺に南の言葉が追い打ちをかけた。
「言っただろ?傍から、だからこそ見えるモノがあるんだって。俺にはまだ見えてるモノだってあるんだからな!」
信じて動いてみるか?
まだ苦しそうに笑ってる南が挑むような目で俺を見詰めてきて。
返事に困ってると、少しだけ困った色が瞳を横切ったのが見えた。
「100%勝利を確信した『恋』なんてツマンナイだけだと思うよ、俺は」
「・・・・・・南のくせに、偉そうな台詞!」
「うっせぇよ。50:50でも動けないおまえには言われたかねっつの!」
そう言われてしまうと俺は何も言えない。
確かに、もっともな色んな理由をつけて今の状態を誤魔化してるのは本当だから。
「・・・・・・ねぇ俺、南のこと信じちゃうよ?」
「信じてみれば?」
上目遣いでぼそりと呟けば、あっさりと返されて。
無責任でしょ!とか思わない訳でもなかったけれど、もう自分自身じゃ進むことも引くことも出来ない俺には託宣のように思えた。
笑う南に勇気づけられる。
「結果がどっちにしろ俺のせいだと思えば、気も楽だろ?」
「うわーん。南ダイスキっ!」
「っ馬鹿!俺に言ってどうすんだよっっ!」
抱きつこうとした俺を南が嫌そうに押しのけた。
その表情がホントに「こいつウゼェ」とか思ってそうだったけど気にしない、気にしない。
「・・・・・・言ってみよう、かな」
独り言のように呟いたその言葉に南がちいさく笑った。

ねぇ俺が『好き』だと言ってもいい?
本当にさ、俺、自分で嫌になるくらい『好き』だという気持ち止められないんだよ。
ねぇ東方、大好きなんだ。