春 の 嵐

久しぶりに4人で出かけた。
いつものようにこれといった目的なんてなく、街中をただブラブラとしてるだけだったけど。
「今日発売のCDあるから、ちょっと寄ってっていい?」
千石が思い出したようにそう言って、通り過ぎたショップに足早に戻っていった。
その後を東方がついていって、したい事もなかった俺と亜久津もその後を追った。
日曜日だからか思った以上に人が多い。
人の波を掻き分けるようにして進むと千石を見つけた。
「探してたのあったのか?」
「あ、うん。・・・て、あれ?東方とあっくんは?」
ほらと差し出されたのは俺も欲しかったヤツ。CDをチェックしてたら千石がきょろきょろし出した。
近くにいたはずだと顔を上げたが、すぐに見かかるようなそばには2人の姿は見えない。
亜久津も東方も人より抜きん出てる身長があるから探すのは楽なんだけど。
「中には一緒に入ったから、そこらへんにいる筈だぞ」
「そう?今日は人多いから面倒くさいんだろうねぇ」
「だろうな。あいつ等下手に注目集めるしな」
「じゃあ逆に探しやすいかなー」
早々と会計を終わらした千石と連れ立って、店内を歩き回る。
ここはCDショップも入ってれば書店もレンタル店も入ってるとこで、探すとなれば結構時間もかかる。
千石と2人してきょろきょろしてると前からやってきた高校生やOL風なお姉さん達が何やらこそこそと囁きあっている。
色めきたったその様子に千石と顔を見合わせた。
「・・・っぽい?」
「・・・かもな」
そんなお姉さん達の流れに逆らうように前へ進むと、ちいさいけれどぽっかりと開いた空間が見えた。
「「・・・やっぱり」」
書店の中、車やバイク関係の雑誌が置かれたスペースに亜久津と東方を見つけた。
まだ乗れる年齢に達してないくせに2人して雑誌を読んでいた。
別々の雑誌を手にしたが時折、雑誌に目を落としたまま話したり、呼ばれて相手の雑誌を覗き込んでみたり。
亜久津の銀髪は今日もきっちり立てられ、反対に東方の黒髪は下ろされてて。2人して黒系統の服でつけてるのはシルバーのアクセばかり。
その雑誌が並ぶ長い棚には人も多いが2人は以上にというか異様に目立ってて他の野郎どもなんか眼中になしといった女性陣の熱い視線を集めてた。
「どうする?あそこ行く?」
千石に訊かれたが俺にはそんな度胸はない。
「おまえ呼んで来れば?」
「え、俺?」
厚顔無恥が服着て歩いているっぽい千石も流石に腰が引けたというが、目立つのには慣れてるからそれは問題じゃないらしい。
改めて見る東方の恰好良さに眩暈がするのだとほざいたのだ。溜め息をつくと千石の首根っこを捕まえて2人へと近づいた。
「亜久津、千石の――」
名前を呼んだ次の瞬間。俺も千石に同感だと思ったがもう遅い。
いつぞや見て腰砕けになったフレームなしの眼鏡の奥から色素の薄い瞳に見詰められて、千石と2人、回れ右したくなったのは言うまでもない。
何故か増えた嬌声を遠く聞きつつ、千石と苦笑いしたのも、いつかは「良い思い出だ」と言える日が来るんだろうか?なんて考えながら。