深 海

ねぇキミたちは一体どこが好きだと言うの?
何を思ったのか、一緒に出かけた時の東方の髪がオールバックじゃなかった。
いつもは綺麗に撫で付けられている筈の髪がそのは風にふわふわ揺れていて。
何でなんだか見慣れている筈の東方のその恰好に照れてしまって、視線が合わせられない。
上手く呼吸も出来ない。
その時はいい気分だったんだ。
「昨日、千石くんと歩いていたの誰?」
東方に「好きなの」と告げたことのある女の子が俺に訊いてきた。
ねぇキミにはあれが誰だかわからなかったの?
「好きだ」と告げたキミなのに?
唖然としてた俺にその子は付け加えた。
「かっこよかったよねーもしかして他校の子?」
自分の好きな人が「好きだ」と言って貰えるのは意外と嬉しい。
それは嬉しいことだけど何もわかろうとはしない、ただ簡単に「好きだ」という神経はわからない。
口惜しさに口唇を噛んだ。
わかろうともしないくせに気持ちだけは押し付けてくる。
キミたちは東方の何に惹かれてると言うの?
ねぇ「好きだ」と言うけれど、
キミたちはどこが好きだと言うの?
俺だけに見せてくれる東方の姿。
誰も知らない、俺だけの東方。
ねぇ東方。
東方も俺と同じようにそう思ってくれてるんだよね?