フ ェ チ

着替えようと汗でぴたりと張り付いたシャツを引っ張りつつ脱いでいると隣のロッカーに千石が帰ってきた。
今日も今日とて遅刻してきた千石に南がキレて罰練を課されていたのだ。
時間が惜しくて放り込んでいただけのバッグに手を伸ばそうと腰を屈めた千石の項に東方の目が行った。
「――――」
無意識だった。
ただ、日に焼けても赤くなるだけで終わってしまう千石の自分よりも白い肌に汗で張りついたオレンジ色の髪が鮮やかで。
「ぅ、あんっ!」
びくりと全身を震わせた千石の口から声が上がった。
がやがやとしていた決して狭くはない部室が一瞬でしんと静まり返った。
東方の無意識に伸ばされた指先が張りついた髪を弾くように千石の項をつるりと撫でて行ったのだ。
罰練が終わったばかりで火照ったままの身体には、とうに汗で冷えてしまった東方の指先に反応するなと言うのが無理な話で。
めずらしく、ぽかんとした吃驚した表情で見下ろす東方と遠目にもわかるくらい涙目になった、半ば腰砕け状態でぺたりと座り、恨みがましい瞳で見上げる千石。
しんと静まり返っていた部室が一瞬の隙をついて、またがやがやと騒がしくなった。
どう聞いても、あの千石の声はあの時のモノで。
その意味をくめた者たちは気不味げに視線を逸らし、その意味を解さなかった者たちもそこはかとない空気に我関せずの意を表したらしい。
嘘臭い、どこかやけっぱちな喧騒の中、力の入らない膝に舌打ちしつつ千石が身体を起こした。
立ち上がりロッカーの扉を開くと隣の長身の持ち主である東方の影に隠れてしまい、他の部員達からは見えなくなった。
千石のロッカーの向こうは南のロッカーがあるだけなので真っ赤になった千石の顔も見られずに済む。
笑いを堪えつつ南がそんな千石の背中を叩いた。
「・・・明日は遅刻せずに部活来いよ」
南のありがたいお言葉も今の千石には届かなかった。