泣 か な い 男

「東方って泣くことある?」
見損ねていた新作のDVDを借りてきた、ある日の事。
涙ものの大感動作と銘打ってあっただけはあった作品。
見終わった俺はティッシュの箱を抱えつつ、気分が盛り上がりすぎて止まらなくなった涙に四苦八苦しながら、隣で普段通りの涼しい表情で缶コーヒーを飲む東方を見やった。
ちらりと窺っても鼻をすする気配もないのは当たり前。
3年近くになるオツキアイの中で東方の目に1度たりとも涙が浮かぶところなんて見たこともない。
何の気なしに訊ねた俺を東方が目だけで見やる。
「泣く、ことか?」
「そう。大体、東方って映画観ても小説とかの本読んでも泣くことなんてないデショ?」
「・・・・・・ああ、まぁ」
空中に視線を向けた東方がぼんやりと頷く。
答えを期待してた訳じゃないから、話はこれで終わり、そんな感じで東方の肩をポンと叩いたら。
「って、え?」
その手を掴まれた。勿論、掴んだのは目の前でにやりと笑う東方。
意味がわからず、?マークを浮かべた俺のもう片方の手を掴むと両方を引っ張られて東方のひざの上に倒れ込んだ。
顔を上げるとそのまま両手を東方のそれに絡め取られる。
おでことおでこがくっつくくらいの至近距離。
ドキリとした俺の様子に何も言わず、ちいさく笑いを浮かべたままの東方に引き寄せられた。
「・・・・・・おまえが」
「え」
「おまえが俺の傍からいなくなったら泣くぞ、俺は」
「!!」
おでこにキスを受けながら、強ち冗談でもない口調でそう言われて。
やっぱり泣いちゃったのは俺のほうだった。