君 と 僕 、 2 0 の 狭 間 --- 5 - 6

配布元 : 最果エレジー





05 * 向 こ う 岸 に 居 る

「俺と南が崖っぷちにぶら下がっててさ」
「うん?」
「どっちかを助けたら、もう1人は落っこっちゃって助けらんないワケ」
「・・・あー」
「東方はさ、その状況でも助けるのは俺じゃなくて南だよね」
何て事はない昼休み中の世間話。
ペットボトルのお茶を一気に流し込んだ千石が空を見上げたまま、質問形態でなく、そう言った。
横で聞いていた俺は飲み込もうとしていたご飯で思い切り咽た。
「せ、千石!」
「え?あー南、大丈夫?」
げほごほと咳をしてる俺の背中を無造作に撫でてくれるのは煙草を咥えた亜久津。
そんな俺の頭越しにその亜久津は眇めた目で東方を見やっていて、なんとはなしに一触即発状態・・・なのか、この状況?
収まりつつある咳をしつつ東方をちらりと横目で見やれば。
「一人は絶対に助からないんだろう?なら、俺が助けるのは南のほうだ」
いや、おまえも何言い切ってんの!
「でしょう?」
つか千石、オマエも何笑ってんだってーの!
気がつけば背中を撫でてくれていた筈の亜久津の手に力が入ってたりして。
噴き出した汗は咽たのが原因だった筈なのに、いつの間にか違うモノに変わってたりしてないか?
たらりとこめかみを伝う新たな汗にぞくぞくしてしまう。つか、この雰囲気どうするんだ!なんて思っていると。
「南を見捨てるワケにはいかないから南をまず助ける」
「うん」
「そのあと、俺はオマエの後を追って飛び降りるよ」
「・・・うん、アリガト」
何でもないように言い切った東方に千石が笑う。
「だったら!」
「え」
「だったら、東方が飛び降りた後、俺も飛び降りる!助けられてハイソーデスカなんて終われるか!」
そんな風にして残されるのなんて嬉かないだろーがと勢い込んで言うと千石と東方がぶはっと吹き出した。
「それこそあっくんが居た堪れないよね、それ。南が飛び降りちゃったら、あっくんも絶対あと追うでしょ?」
「しかも結局、誰一人助からない・・・バッドエンディングだな、これ」
あはは、と笑う二人の意見もごもっとも。亜久津を窺えば、溜息で返された。
「まぁでも運命共同体っていうの?そんなのも幸せは幸せな感じだよね!」
千石の総まとめ的なお言葉に「ああソレもありか」と呟いてしまい、亜久津の盛大な溜息を頂いてしまった俺だった。





06 * 頭一つ分

中学生男子として決して低くはない千石も隣に並ぶ東方のせいで小さく見えてしまう。
「あ。あの子、可愛くない?」
部活の帰り道。
駅前の道路は近隣校の制服を着た生徒やスーツ姿の社会人らでごった返している。
信号待ちをしている時、通りの向こうを歩いている誰かを見て、千石が声を上げた。
「オマエの好みはああいう系か?」
「んー基本的にオンナノコはみんな好きだけどねー」
「・・・ああ、成る程」
東方の問いに千石は聞き慣れた台詞で返す。
後ろにいた俺だから、気付いた。
東方の問いに、笑った顔なのに浮かんだ何処かヤケっぱちな表情の千石。
千石の答えに、静かな顔に浮かぶ苦しそうな瞳をした東方。
頭一つ分しか違わない筈の二人なのに、たった、それだけの筈なのに。
二人の距離の近さと遠さに、俺に出来たことは俯く事だけだった。