50TITLE * MINI --- 4

お題はコチラから。





31 * 地下鉄

ひとりで乗る地下鉄は暇だ。
中吊りなんかも一通り見てしまえば後は見るものがないし、勿論、話す相手もいない。常識を疑われるのが判っててまで携帯をいじろうとも思わないから本当にする事がない。
ぼんやりと視線だけを彷徨わせていると中高生に見える、同じ年頃くらいの女の子が目に入った。
握りしめた携帯に目を落としては時間でも確認してるのか見るたびに小さく頷いてたりして。
あ、もしかして。
ふと思いついた俺もポケットの中で携帯を握る手に力が入った。
もしかしたら、俺と同じなのかな。
次に着く駅では東方が待っててくれてる。
外せない用事が出来てしまって、でも、わざわざ時間を作って会ってくれるというから普段は降りない駅で待ち合わせだったりする。
もしかしたら。
あの彼女も大切で大事なヒトと待ち合わせでもしてるんじゃないだろうか?
電車の速度が緩やかになる。
彼女の瞳が遠目にも輝くのがわかって、思わずつられるように俺の顔も緩んでしまった。
そろそろ駅に着く。
アナタも同じくらい喜んでくれるといい。
そう願いをこめて、開いた扉へと歩き出した。





32 * 音楽

いつの間にか眠っていたらしい。
雨で中止になった部活の替わりにこれでもかと溜まっていた書類なんかの整理をしているはずだった。
テニス部の部室はコートに面して作られていたから雨でも降ると人の気配はぱたりとしなくなる。それに加え、強くも弱くもない雨音が部室のみならず意識まで隔絶してくれたらしい。
とりあえず、と入れていた暖房は寝るのに適温で。
ゆっくりと湯船に浸かっているような浮遊感。
けれど。
それだけじゃない温かさとどこかで聴いたことのある音に意識が浮上してきた。
「・・・・・・?」
つけてはいなかった筈の天井の照明を感じて、今更ながらに他人の気配に気付く。
あ。
ひっかかった温もりと音の正体。
壁に立て掛けられていたパイプ椅子がいつの間にやら俺の横にあった。そこに座っていたのはいうまでもなく、亜久津。
眠ってしまった時にバラバラにしてしまったらしいファイルやら何かを乱暴に、でもきちんと選り分けられているっぽく仕分けしてくれている。
ただ何で片手なんだろう?と寝起きで頭で考える。
と、その時。それまで聞こえていた、耳に低く届いていたメロディが途切れてしまって思わず「え」と顔を上げた。
「やっと起きたか」
面倒くさそうな物言いはいつもと変わらなかったけれど。
どことなく機嫌の良さそうな亜久津の態度にまたもや浮かぶクエスチョン。一体何なんだ、と身体を起こしてようやく気付く。
見かけによらずイイ体格の肩に預けさせてもらっていた俺の頭。
しかもそれだけじゃなく。
擦り寄った方の俺の手はしっかりと亜久津の片手を握り締めているではないか!
プラス、恋人握りとか呼ばれてる(とか何とか千石が言ってたような気がする・・・?)互いの指を絡めた繋ぎ方。
これで機嫌が良かったのか。成る程と思いつつ、働きの悪い頭をもう一度凭せかけると亜久津が見下ろすのが気配でわかった。
「んだ、てめぇ。まだ寝る気か」
「んー・・・つか、俺がこんなに眠いの誰のせいだかわかってる?」
「・・・・・・」
「あと、も少しで良いから寝かせて」
ふぅと吐かれる溜め息にくすりと笑いをこぼす。
「亜久津の声、聞いてるとそれだけで天国行けそう・・・」
「おまえ・・・!」
気持ちのイイコト、俺だって嫌いじゃない。
だから今は眠らせてよ?
霞んでいく視界の中、ぽそぽそと伝えるとしょうがねぇなという風に繋いでいたのとは逆の手が伸びてきて頭を撫でられた。
俺が寝てる間、低く小さく。
子守唄のようなメロディが奏でられていた。





33 * ゲームセンター

視線を集めない、とは言えない容姿とパフォーマンスが大好きな性格のおかげで小さい頃から他人に見られるということには慣れていた俺だけれど。
東方と出会って、そういう関係になって。
2人きりでいる時間が増えるにつれ、それは笑えない冗談になりつつある。
「あー・・・と、東方?」
「なんだ?」
南と亜久津との待ち合わせの時間まで暇つぶしにと入った駅前のゲーセン。
大きな、流行りのキャラクターがぎゅうぎゅうに詰め込まれたUFOキャッチャーを適当に操作しつつ、機械の箱の上を掴むようにして立った東方を首だけで振り仰ぐ。
そう、東方は俺の背を抱くようにしてピタリとくっついて立っていたりする。
目が合うと口の端で笑われて、正面へと向き直った。
「なんだ?これ、そんなに欲しいのか?」
「・・・・・・な、ように見える?」
「いーや?」
「・・・・・・・・・・・・」
操作してたアームがガコンと止まり、伸びたその先がキャラクターのぬいぐるみを掴む。
どうして大して欲しいと思わないモノってこんなに簡単に取れるんだろう?なんて思っていると目の前のガラスに映った東方と視線が絡んだ。
ふだんは見せない、ふわりと微笑むその顔。
ひくりと引きつった俺に気づくと東方は。
「どうした、取れなかったか?」
「!」
うわっ!大声を出さなかった俺は「偉いぞっ俺!」と自画自賛。
東方は掴まっていたのとは反対の手をわざわざ制服のポケットから出して俺の頭を撫でるように髪の中へと滑らせた。
そして、そのまま自分の口元へ俺の頭を引き寄せる。
オレンジ色の髪にキスする東方がガラスに映り、俺は絶句するしかない。だって、その顔に浮かぶのは「してやったり」という表情。
狙ってやったとしか思えない。
機械越しにきゃあきゃあ騒いでいた女子高校生やらのお姉さん達までもが息を飲み、動きが止まってしまったのだから。
一瞬にして静まり返ったフロアに響き渡る騒々しいBGMがやけに遠く感じてしまったのが他人事みたいで。
「あれ、おまえシャンプー変えた?」
平然と何事もなかったようにそう訊いてくる東方に俺はコクンと頷いた。
待ち合わせの時間に大幅に遅れてくれた南と亜久津に取れたぬいぐるみを思いっきりぶつけてやろうと思いながら。





34 * 怪我

少々(じゃないと言い切りたい)落ち着きのない千石は日頃から生傷が絶えない。
勿論、大騒ぎするような酷いものではないけれど。
まぁ何と言っても千石の傍には必ず東方がいるんだから、そんなバカな事させる筈もない。
「あーあ、折角かさぶた被ってきたのにな」
同じ箇所をやってしまった肘のところに消毒スプレーを吹きつけてやりながら呆れた口調で言うと、当の本人は「えへへ」と笑うだけ。
何だかムカついて、ビシッとおでこを指先で弾いてやる。
髪の上からとはいえ威力はそう変わらなかったらしく、うめく声が聞こえて来た。
千石の態度が変わるとは思えないし、馬鹿な事をしでかす性格も実のところ変わって欲しくはないんだけれど(自分に害がない限りの事ではあるけども!)万が一、ということもある。
「ったく・・・東方からもキツく言ってくれよ。いつか大怪我したって俺は知らないぞ」
怪我の程度を気にするでもなく手にしていた雑誌に目を落としたままだった東方へそう言ってやる。
千石の存在意義全てだと言い切れる、この男の言葉ならイチもニもなく頷くだろう。
俺の言葉にふむ、と頷いた東方が千石を見やる。
「まぁ?大怪我でもした時には俺が以後の面倒全部看てやるから」
「ホント!?東方!?」
「・・・・・・って、こら!」
続けられた「安心してヨメに来い」なんていう台詞に千石は感激していたけれど。
いやそういう問題じゃないだろ!っていう俺の抗議は綺麗さっぱりムシされた保健室での1コマ。
その後、亜久津からの「・・・テメーが馬鹿なんだよ。関わんな」というお言葉に涙ながらに頷いたのは俺たちの秘密だ。





35 * 家族

36 * 夏休み

37 * 映画館

そりゃ確かに他では超大作とか話題のシリーズ最新作だとかやってるけれど、土曜日だというのに、この人数は少な過ぎじゃないだろうか。
全国系の映画館だというのに入ってるヒトは俺たちの他には
3人だけ、という始末。
何百席とあるともなれば貸しきり気分なのだけれど。
「や、ちょっと東方、何」
「いいから」
いいから、じゃないでしょ!
こそこそと隣に座る東方に抗議しても何処吹く風。
上映が始まって15分。
早くも内容に飽きたらしい東方の手がするすると這って来たのはついさっきの事。初めは何気なしだったのが今では明確に意図をもって動くから、たまったモンじゃない。
「・・・・・・あ、やぁ・・・・・・」
慌てて他の座席に眼をやれば、スクリーン前に近い所にひとり、離れて真ん中より前方の位置に二人連れ。
俺たちが座っているイチバン後ろの席まではかなりの距離。
「大丈夫、聞こえない」
「そんな問題じゃ・・・あ、」
「じゃあ、こうするか」
告げられた途端、大きな手で口元を塞がれた。
耳元に寄った薄めの口唇が触れるか触れないかギリギリの距離で言葉を紡ぐ。
「これでいいだろ?」
ぺろりと耳骨を舐められて、一瞬で力が抜ける。
それを見越したかのようにそれまで撫でるだけだった手が器用にボトムのファスナーを下ろしていき、焦らすようにゆっくりと入り込んでくる。
指先がなぞるように動いて、俺の身体は勝手に期待に揺れる。
自分でも意識しないうちに腰が揺れ動いていたらしい。
咽喉の奥でちいさく笑った東方が耳に舌を這わせながら低音で囁いてきた。
「イイ子、だ」
熱に浮かされ意識が戻った時は映画が終わる5分前。





28 * 綺麗な右手

39 * 日曜日の朝

40 * 正義の味方