50TITLE * MINI --- 1

お題はコチラから。





01 * コンビニエンスストア

千石はまるでドラえもんの四次元ポケットだ。
飴だのティッシュだのはホンの序の口。
爪きりや何に使うか考えたくないマニキュアに始まって。
ライターや煙草、必要最低限のモノが収まってる小さな救急箱、ゲーム機にMDやお菓子類。
一度は冬場に自分の分以外のマフラーや手袋まで出てきたことがあった。
「おまえ、いっつも荷物が人よりデカかったのはそのせいか!」
「え〜?だって、いつ何が必要になるかわからないじゃない」
「いや、だからってな」
それはどうなんだ?そう続けると千石は笑った。
「いいじゃない。ひとりコンビニだと思えば」
各種取り揃えておりますよ?笑って言った千石が「そうそう」と思い出したように付け加えた。
「いちばんの売りは『東方への愛』だけどね!」





02 * 携帯電話

亜久津の携帯が鳴るというのは実に少ない。
本人からの『オトモダチ』という関係が気薄なせいもあるけれど。
(だって日頃、会話をするのは俺と千石か東方くらいだし)元々そういう機械系が煩わしいらしい。
俺といる時には俺はかけないから、尚更。
稀に千石や東方から掛かってくるか、優紀ちゃんからの連絡かそれくらいで。
いつも持ち歩いてはいるけれど愛着なんてないんだろうなぁと思ってた。
(実際にその反対を考えると怖いモノがある)
だから。
たまたまの思いつきだった。
亜久津の携帯が鳴る時はいつもフツーの呼び出し音で。
千石からの電話を切った後、ふと思いついて亜久津のそれへとコールしてみた。
「「!」」
鳴り出した音にびくりと反応したのは俺と、亜久津。
俺の携帯からはコール音。
亜久津の携帯からはオリコンチャートで見かけた流行の着うた。
横目で睨んできた亜久津は実に気まずそうで。
俺は素知らぬフリで通話を切った。部屋に流れるのは沈黙。
教えてなんかやんないよ。
俺のナンバー000に登録してあるのがおまえだなんて。
恥ずかしさ倍増だろ?





03 * 深夜

夜中にちょっとした、些細な気配で目を覚ますことがある。ちいさな明かりだけが灯る部屋は薄暗い。
ぼんやりとした景色の中、横を見やれば。
「・・・南」
名前を呼べば、明らかに眠っている表情で俺をほうを見る。
また寝惚けてんのか。
上半身を起こした格好で舟をこぐ南をもう一度呼ぶ。
「・・・・・・ほら、来い」
ずれた毛布を捲ってやると寝惚けてるくせに、どこかいそいそとした感じで滑り込んでくる。
すりすりと頬を寄せられて、抱きしめ返すと安心したようにまた夢の世界へと戻っていく。
「・・・・・・あくつ、だい・・・す、き・・・・・・」
髪に鼻先を埋めて、眠りの世界へ追いかけようとした俺の耳の届いた南の声。
苦笑するしかなかった。





04 * 公園

所構わず喘ぐ声が聞こえてくるのが夜の公園で。
わざわざ外でスルこともないだろうと思うのだけれど、これは意外と病み付きになりそうかも?
思考を逸らすために埒もないことを考えていたら、思いきり奥まで突かれて。
「・・・・・・やっ、ぁあん!」
それまで殺していた声が一声、自分の口から洩れた。
後ろから同じように声を押し殺した笑う振動が伝わってきて腰にダイレクトに響く。
「結構、余裕そうだな?」
笑いを隠さない声でそう囁かれる。
そんな事ないのは良くわかってるくせに、意地悪しないで。頭を振って答えると耳の後ろを舐められた。
出かかった声が咄嗟に覆った、大きな掌に吸い込まれる。
もう片方の手が、俺が抱きつく格好になってた木の幹へと付かれて。
その動きに繋がりが深くなる。
思わず息を飲み込んだ俺の耳元へ東方が口唇を寄せてきた。
「声、出すの禁止な」
いいか?と訊かれたけど、返事なんて絶対ムリ。
ゆるく頭を振った俺の頬を後ろから大きな手が撫でていく。
ちいさく頷いた俺に東方の大きな掌が口元を覆った。
「思いきり啼けよ」



05 * ライバル

「あの2人ってホント、仲いいよねぇ」
シングルス組の休憩中。
ベンチに座り汗を拭いていると隣のコートでまだ練習を続けているダブルス組が見えた。
あれこれと話しながらサインとコンビネーションの確認をしてるのは東方と南。
俺の呟きに隣でドリンクに口をつけた亜久津が「はっ」と鼻で笑う。
馬鹿馬鹿しい、そう言いたいらしい。
でもね?俺は知ってるよ。
俺が南を意識するように、いや、それ以上に亜久津が東方を意識してること。
「親友のいちばんって、ある意味さぁ恋人より上だよね」
そんな俺の言葉と同時に、話の途中で笑った東方が南の髪をくしゃりと撫でるのが見えた。
南も当たり前のようにその手を受けて可笑しそうに笑っている。
横を見なくてもわかるくらい亜久津の体がぴくりと跳ねた。
東方と南が互いに親友としか見てないことは俺も亜久津もよく知っている。
だけど、替えがきく『恋人』と違って『親友』は無二のものだから。近い立ち位置は絶対に変わらない訳で。
「・・・・・・・・・・・・っ」
苦々しそうに息を飲み込んだ亜久津の様子に俺も苦笑しつつ頭上に広がる空を見上げたんだった。
馬鹿みたいな嫉妬心が渦巻く今の俺たちには突き抜けるような空の青が目に痛かった。





06 * 色の白い人

俺の髪と瞳は真っ黒だけれど、亜久津の髪や瞳は日本人とはちょっと系統が違うような気がする。
(まぁ今の髪色はどう見ても日本人じゃないけども)
亜久津の家で見せてもらった(勝手に見た)アルバムに残った幼い時の写真に写っているのなんか益々そんな感じで。
さらさらと流れる茶髪が地毛だというんだから羨ましい事この上ない。
聞いた話によると母親の優紀ちゃんも父親も生まれつきそうだと言うから、遠い昔、外国の血が交わって今になって先祖返りでもしてるんじゃないだろうか?
「・・・・・・ん・・・・・・」
じっと見詰めていると眠っている亜久津がもぞりと動いた。
動いた拍子に肌蹴た毛布。
それまで隠されていた、色素の薄さを感じさせる白い肌が薄暗闇に浮かび上がった。
そして目に入る、俺がつけた紅い痕。
そこにそっと口唇を寄せると亜久津がその感触にもう一度もぞりと動く。
「キレー」
白い肌に赤い痕。思わず洩れた自分の呟き。
目に焼きついたそれに誘われるようにもう一度、亜久津の肌に口付けた。





07 * チビ

「日曜日にジローと出掛けた時にさぁ山吹の千石、見た」
岳人がふと思い出したように隣のジローを見て言った。
「そうそう」と頷いて、ジローがにこにこ笑う。
「別に珍しいことでもないだろーが」
「いや、それがさ。えっらい男前と一緒だったんだよなー」
「背も高くてねぇ千石くんが小さく見えたくらいだよ」
岳人とジローが互いを見て「なぁ?」と頷きあう。
千石の顔を思い浮かべて、その隣に立つ人物を考える。
程なくして思い浮かんだ人物が2人の言ってるヤツだろうと確信する。山吹のダブルス1の片割れである、その男。
「なんかねぇ千石くん、物凄いイイ顔して笑ってた」
「あーん?」
「うん。試合やってる時みたいな・・・」
と言いかけて、岳人が少しだけ考える。
「ちょっと違うか。なんて言うか、すっげー幸せそうな顔してたんだよな」
「そうそう。見てて、こっちまでつられちゃうような、ね?」
「うん」
やっぱり。千石が一生涯かけて愛すんだ、とか言ってたなとか思い出して苦笑した。
色んなことに興味を示すくせに、その実、一人の人間しか眼中に入ってないんだ、あいつは。
「大好きなんだろーねー」
千石の笑顔を思い出すようにして呟かれたジローの言葉に、いつか見た、寄り添うアイツ等の姿を思った。





08 * 結婚式

成人して数年も経つと、仲の良い奴等の中には結婚しだすヤツも多くて。
大安吉日な本日。晴天もメデタク、我らが山吹の元チームメイト、新渡米っちの結婚式。
ガーデンパーティ形式で行われるそこは都内でも吃驚するほどの広大な敷地を誇るところで、広々とした式場の中には結構な数の招待客。
その中には同じ学校だったヤツを含め、そこここで見知った顔と出くわす。
なんだか、ちょっとした同窓会っぽい。
「おーい、投げるぞー」
聞こえてきた本日の主役、新渡米っちの声にそちらを向くと小さなステージの上で新郎新婦がこっちを見て、にこやかに手を振っていた。
どうやらブーケトスが始まるらしい。
受け取った人が次に幸せになれる、そういう代物だという話。
隣に立つ南と「俺たちには関係ないよねぇ」なんて話していたら。
「「え?」」
パサリと。
軽やかな音と共に降ってきたそれは。
しぃんと静まる会場。
そりゃそうだろうと思って、どう対処しようかと南を見やると唖然とした顔で俺を見てたりして。
肩をくっつけるようにして立っていた俺と南。
その南のスーツのボタンにリボンが引っかかり、俺のスーツの袷に納まっているのは見間違い様のない新婦のブーケ。
ぎらぎらとした新婦の友人たちの視線に晒され、困り果てた俺たちはステージ上へと視線を向けた。
目があうと新渡米っちはにやりと、新郎にあるまじき笑顔で俺たちを見た。
その横で苦笑しつつ、真っ白な手袋をした新婦がグッと親指を立て、新渡米っちと「成功〜」と喜んでたりして。
新婦の彼女は高校でテニス部マネをしてくれていたツワモノ。
「うわ〜謀られた!」
苦笑を浮かべて南を見れば、同じように笑ってた。
「幸せにな(ね)!」
そんな俺たちに新郎新婦から祝福の言葉が贈られて。
「それ反対だから!」と南と声を張り上げる。
山吹にいる時からずっと、俺と南の横には当たり前のような顔をして東方と亜久津が立っていて。
今日も今日とて、そこが定位置だと言わんばかりに俺と南の横を固める2人の姿を見た新渡米っちからのせめてもの応援らしい。
お祭好きの昔馴染みのテニス仲間たちが騒ぎに乗るように、口々に祝福の言葉を投げかけてきた。
俺を東方を見て、南は亜久津を。
肩を竦める答えが返ってきて、顔を見合わせると俺と南は吹き出した。
新婦の友人たちからの大嵐みたいなブーイングの中、2人してブーケを高々と掲げると(悲鳴を含めた)喚声が上がった。





09 * 絵の具

「だから真面目に出て来いって言ったんだ」
呆れたような南の呟きを無視して、ぼんやりと煙草を咥えているのは亜久津。
「そういうテメェだって終わってねぇんだろーが」
「う。やーまぁそうなんだけどさ!」
「まぁまぁ2人とも。さっさと描いて終わらせようよ!」
「てめっ千石!大体、誰の邪魔のせいで俺が描けなかったんだと思ってんだっ!」
「あー・・・俺?」
メンゴメンゴと謝ると南から思いっきり睨まれた。
ここは美術室。
いつものメンバーで美術の居残りを申し渡され課題に励んでいる最中だったりする。
「とにかく。いい加減に3人とも筆くらい持てよ」
東方が絵の具をパレットに広げつつ、横目で俺たちを見やった。
かちゃかちゃと音を立てる東方のパレットを覗けば、大量の青い絵の具。
何描くんだろうと思って見ていると、東方はおもむろに自分の掌へと塗り始めた。
?マークを浮かべて見詰めているとそんな俺に気づいた南と亜久津も興味を引かれたのか、寄って来た。
3人の視線を集めた中、掌に絵の具を塗り終えた東方は広げた画用紙の上にぺたりぺたりとつけていく。
「おー」
「これ色変えていっても面白いんじゃない?」
「あ。それいーかも」
「ね?」
結局、提出したのは4人合作のそれっぽく見えるハンドアート。
掌だけでなく腕や頬、制服にまで絵の具をつけた俺たち四人に美術教師は頭を振りつつもOKをくれたんだった。





10 * 保育園

東方の弟である希美くんは来年、小学校に上がる保育園の年長組さんだ。
さすがに東方と兄弟というか。
その年齢であるにもかかわらず、しっかりしている。
けれど如何にしっかりしていても保育園は送り迎えが必要で。
いつも迎えに行くのはお母さんなんだけど、たまたまその日は何事か急ぎの用事が入ったらしく、兄である東方が迎えに行くことになった。
「うわーやっぱり、お迎えってお母さん達ばっかだねぇ」
東方と一緒に保育園の入り口まで来ると迎えに来てるお母さん方がいっぱいで。
制服のままじゃ人目を引くだろうと着替えては来たものの。
お母さん方から頭ふたつ分身長のある東方とオレンジ色の頭をした俺との組み合わせは異様に目立ってしまっていて。
「・・・・・・うわぁ」
人妻であるはずのお母様方からの熱い視線を受けているのは髪を下ろした東方。
すれ違うたびに頭を下げる東方にお母様方は声もなく、呆けたように見上げていて。
「希美」
「おにいちゃん!」
お母さん達の向こうに弟の希美くんを見つけた東方が名前を呼ぶと希美くんが不思議そうな顔をして駆け寄ってきた。
東方が簡単に説明してあげると「わかった」と素直に返事をしてくれる。
微笑ましいその状況を見ていた俺はふと気づく。
うわぁ。
遠巻きに囲まれるようにして注目の中心に東方兄弟と俺。
目立つのが好きな俺でもちょっと遠慮したい雰囲気のそれ。
気持ち的に後退りたくなった、が。
「あ!せんくんも来てくれたんだ!」
その希美くんの声に東方と挨拶を交わしていた担当の先生が俺を見た。ぺこりと頭を下げた、その瞬間。
「せんくんはね〜おおきくなった、ぼくのおよめさんになるんだ」
「!」
にこりと笑って、そう言いきった希美くんに周囲の大人は「あらあら」という感じだったのだが。
「・・・ヤバい?」と思った時はもう遅かった。
ぐいっと腕を掴まれ引っ張られたと思ったら、すぐ傍に東方の顔。
至近距離で見る、そのオットコマエな横顔に見惚れてしまった。
が、そんな場合じゃなかった。
「千石は俺のものだ。希美んじゃない」
東方の一言に場がしぃんとなる。
言葉が見つからず、口をパクパクさせていると東方に掴まれていた手とは逆の方を希美くんに掴まれた。
「おにいちゃんのけちっ!」
左右両方から腕を引っ張られ、微笑ましいと言えなくもない東方兄弟の悪舌応酬の中、俺たち3人は保育園を後にした。
曲がり角を曲がるその時まで、お母さん達の興味津々な視線がついて来たのは言うまでもない。