WEBCLAP LOG - 春夏秋冬


01 * 赤福

久しぶりに会った福士くんは本の鬼と化してしまっていた。
「ねー福士くんー?俺の話、聞いてるー?」
「・・・・・・」
聞いてないよね。
ウンともスンとも返事はない。というかピクリと動く反応さえない。
夏が終わって、三年生の先輩たちが引退して。
寂しく思う前に部長引継ぎをさせられて。
(しかも教育係だという真田元副部長は相変わらずスパルタで。いや、ていうか部長職じゃないのになんで?元部長の幸村サンは笑ってるだけだったし!)
ようやく先輩たちがいないことにも自分が部長としてコートに立つのにも慣れて、時間が出来た今日。
いそいそと愛しの福士くんに会いに遥々やって来たというのに、この仕打ちはなんだろう?
しかも、ハリ○タ第●巻。
出たのはもう1ヶ月半も前だというのに(柳先輩が買いに行くのをついていったんだっけ)今頃、上巻読んでるのはどうして?
することもなく、ベッドに腰掛けていた俺はゴロンと横になった。
ぽふと軽い音がして、肌触りのいいベッドカバーが頬に触れる。
そして。
そこから香る福士くんの匂いに包まれた。
うん、ホントはね?
こうして見てるだけでも俺は幸せなんだ。手を伸ばせば触れられる距離にいることだけでも俺の日常じゃ考えられないことだから。
話がしたい、笑ってる顔が見たい。
キスしたい、抱きしめたい。
そう思わないこともないけれど。福士くんのテリトリーである部屋に上げてもらって、同じ空間にいるってことがどれだけ幸せなことなのか。
しかも放って置いても大丈夫だと思われてるんなら尚更。
テリトリー内にいても邪魔じゃないって思ってくれてるだろうから。
福士くんの匂いに包まれて幸せを感じつつ、じーっと本に夢中な福士くんを見上げた。
勉強する時みたいに机に向かい読書してる福士くん。
本の世界にハマっているのか、時々笑ったり顔を顰めたりと表情だけは忙しい。
音がしそうな瞬きを見詰めてるだけで嬉しい気持ちになるのって実はスゴイことじゃないんだろうか。
にやける顔をそのままに見詰めているとぺらりと頁をめくる音と共に福士くんがいきなり口を開いた。
「切原」
「う、うん?」
突然呼ばれた名前にどもりつつ返事をすれば。
本に視線を落としたまま、福士くんは何でもない事のように続けた。
「俺さ、夏の間ずーっと勉強してた」
「相変わらず、ぶっちぎりの成績だったんでしょ?」
「発売日に買ったのは良かったんだけど読む時間なんて取れなくて」
「うん」
「ちょこちょこ模擬とか入ってたし。冬になる前にはラストスパートかけなきゃならなくなる」
「福士くんの成績なら何処の学校でも行けるでしょ?幸村部長とか全国模試の一桁台でよく見かけるから福士くんの名前覚えてるって言ってたよ」
「う。まぁそーなんだけどさ」
「(そこで頷けるのが福士くんだよねぇ・・・)」
「けど、俺が行きたいって思ってるトコは試験、えらく難しいので有名でさ」
「え!?福士くん外部受けるの!?」
「は!?」
「え」
「銀華って公立だぞ?付属とかねぇもんよ」
「そーなんだ?」
「そーなんです!って話それたじゃねーか!いやだからだな」
「うん?」
すーはーと深呼吸をした福士くんはようやく俺を見た。
真正面からじっと見詰められて、くらくらする。
横になってて良かったなと頭の隅で考えつつ、先を促した。
そういや福士くんの進路の話とかって聞いたことがない。成績優秀すぎて心配なんてしなくても良かったから余計にそんな事まで頭が回んなくて。
その福士くんは何か意を決したような顔で俺を見てくるから、くらくら感は増すばかり。
あ。
もしかして良くない事なのかな。
同じようにじっと見詰め返すと福士くんは言いにくそうな表情になった。
「俺・・・高校から、立海に行こうと思ってる」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
それだけ衝撃的なこと。
呆けたまま見詰めていると福士くんは苦笑した。
「ホントは中学から行きたくて準備してたんだ。けど、入試の時、風邪ひいて1週間寝込んじゃったんだよ。で、入試はパァ」
「・・・いや、らしいと言うか何というか・・・」
「ほっとけ。プレイヤーとして先はないかもしれないけど俺もテニスが好きなんだ。それに関わる仕事につきたい、だから、その為にも大学があって設備が整ってる立海へ行きたい」
「うん」
不思議と俺のことは理由に入ってないんだ!?と思うことはなかった。
話してくれた福士くんの表情はとても生き生きとしていて。
まるでテニスしてる時みたいな、幸せだーって言ってるような顔。
そんな顔されたら俺は何にも言えないじゃない?
けど、そんな俺は俺らしくないと思ったのか福士くんは窺うように俺を見てきた。
「・・・1年間は別々だけど、お前とも一緒に居れるから・・・なんだからな」
「え」
「会えなくてツラいのはお前だけじゃねーんだぞ。離れてるから会えないんだったら近くに行くまでだ」
「・・・福士くん」
不覚にもほろりと泣きそうになった。
会えない時は俺ばっかり好きな気がしてて悶々とする事も結構あって。
だけど、数えられる程しか会ってないのに半年とはいえ関係を続けられたのは偏に福士くんが自分の思ってること考えてること、好きだと言う気持ちを口にして言葉にして俺に伝えてくれるから。
顔は綺麗で美人さんなのにスゴイ男前なヒトなんだ、俺の大事な人は。
えへへと半分泣笑いの形で笑うと福士くんは俺の髪をぐしゃぐしゃっと掻き回す。
「だからさ、その勉強の合間で一息つけれるのって今だけなんだよ。お前も大事だけど本の内容も気になるんだから、しょうがないだろ!」
「うう。嬉しいんだけど、それは嬉しくない理由だよー!」
まだ俺の髪をぐしゃぐしゃにしていた福士くんの手を掴む。
福士くんが「え?」とか言ってる間にベッドへ引き寄せた。
そう、つまり。
俺の上へと。
「うわ、切原っっ」
「だって嬉しいこと、それだけイッパイ言われたら我慢も効かなくなるでしょ」
「わーっ!」
照れてアワアワしだした福士くんをぎゅうっと抱きしめると酷くなってジタバタし出した。
でもね。
蹴られても殴られても、この手だけは離さないよ?





02 * 亜南

夏が終わり、テニス部を引退した俺は結構な時間を持て余すことになった。
どれだけテニスにかけていたのか、それを思い知らされるようで笑ってしまう。うん、やっぱテニス馬鹿だよなーなんて。
「・・・・・・おー空がたけぇ」
仰いだ空はどこまでも広くて、雲も少なく、抜けるように高い。
汗を拭いつつテニスをしてた頃はまだ鮮やかで濃い青をしていたのに今ではもうすっかり刷いたような色になってた。
「もう何日も前から、こんな空だろーが」
「そうだっけか?」
「ああ」
公園のありきたりな、でも3人は楽に座れるような木製のベンチ。
そこに俺と亜久津はいた。
広い公園の中でも奥まったところなのでひと気はない。
いたとしても、ガタイのいい銀髪の男がベンチに深々と腰掛け、難しい顔をして横文字の本なんか読んでたら近づこうとはしないから。
ここに落ち着いてから1時間、誰も見かけない。
俺は言えば、することもなく。
買ってきてたペットボトルのお茶をちびちび飲みつつ、ひたすらボーっとしてた。
「暇ならどっか行くか?」
「ううん。いいよ、ここで」
「・・・・・・」
「ホントだって。あんまりこんな風にゆっくりする事なんてなかったから慣れてないだけでさ」
にっこり笑ってそう言うと亜久津は「なら、いい」と眼鏡をかけ直した。本に視線を落とすとすぐに、その世界の中へと戻ってしまったらしい。
そんな亜久津を眺めやって、ちいさく笑う。
うん、ホントにさ。
俺はテニスばっかやってたから最後の方なんて亜久津との時間なんてなくて。でも亜久津は何も言わなかった。
引退して、もう遅刻しそうになったからと言ってテニスコートへ走らなくていいんだなんて実感した、その日。
何にもする気が起きなくて、ぼんやりとしたまま昇降口で靴を履き替えていると先の壁に寄りかかっていた亜久津に気がついた。
顔を上げて目が合うと。
亜久津は「頑張ったな」とか「お疲れさん」とか、そんな事一言も言わず、ただいつものように「よう」と言って来た。
でも。
それが俺には嬉しくて、泣けてしまった。
亜久津は俺が泣くのがわかってたみたいに頭をくしゃりと撫でると髪にキスしてきた。
その日は久しぶりに2人で帰って、それからの毎日、学校でも休みの日でもずっと一緒だったりする。
「・・・・・・俺さぁ、やっぱ亜久津のこと」
「あ?」
「・・・・・・ううん。何でもない」
ぽつりと漏らした俺の言葉に亜久津が本から顔を上げた。
じっと見詰められて、照れ臭い。
その視線から逃げるように足を組んでいた亜久津の膝へと頭を預けた恰好で寝転んだ。
下から見上げると珍しくも吃驚した顔。
くすくす笑い出した俺の顔を亜久津の大きな手がパチンと叩いた。「痛っ!」と声をあげると「自業自得だろーが」ともう一回。
「その本、面白い?」
「ああ。なんなら読むか?」
「・・・・・・読めないの知ってて訊くか!」
「なら読んでやろうか?」
「え。マジで!?」
「ただし、英語でだがな」
「・・・・・・くっ、性質悪ぃー」
「うるせ」
本越しの会話が楽しくて。
口調から亜久津の機嫌がいいんだということも知れて。
テニスをする以外にも幸せな事があるんだなんて当たり前のことを思い知らされて苦笑が洩れた。
俺はどれだけ亜久津に無理を強いてたんだろう?
何も言わないから今の今まで気付けなくて、考えもしなくて。
全ては亜久津の俺を想ってくれる気持ちから来てることに嬉しい反面、申し訳なささも募るだけ。
いつもなら照れ臭くて、絶対に言葉になんて出来ないけれど。
俺だって、おまえのこと大事なんだって伝えたくなった。
「亜久津」
名前を呼ぶと本越しにいつもの返事。
その事に気を良くした俺は目を閉じた。
「俺、亜久津のこと好きだよ。傍にいてくれたのすっげ嬉しかった」
「バーカ」
笑いを含んだ声と共に。
本がコツンと降って来て、鼻先へと落とされた。
小さい痛みに「何するんだ!」と言いそうになった時。痛みの原因でもある本が横にずれる気配がして、咄嗟にまた目を閉じてしまった。
ドキドキして待つこと暫し。
ウンともスンとも言わない亜久津にさて、どうしたもんかなと内心で首を捻っていると。
「ンなこと知ってる。それにずっと現在形のまんまだろ」
普段の声音よりも少しだけ柔らかい、その声。
こんなに人恋しいのは、亜久津が欲しいと思ってしまうのは季節のせいだろ、と片付けて手を伸ばす。
すぐに亜久津の手が俺のモノに重なって。
欲しい、その人の心地良い体温に包まれた。
「・・・しばらく、このままでイイ?」
ちいさく言葉にすると笑ったのか、甘やかな空気が揺れたような気がした。





03 * 東千

「・・・東方が浮気しても、俺、東方のこと好きだよ」
「は?」
ベッドの下に座り、寄りかかっていた俺は本を読んでいて。
丁度、話が盛り上がってきたところだったから、ようやく起きたらしい千石が身体を起こしたのに気付いても放っておいた。
そのまま動かない千石。
大方、寝惚けているんだろうなんて思っていたら、ふいにもぞりと動いたかと思うと第一声がそれで。
間抜けな俺の返事は仕方ないだろうと思った。
「いきなり何なんだ」
「・・・うん。例え、その相手が南だとしても俺はねぇ東方が好き」
それは変わらないもん。
明らかに涙声でそう言い募る千石は毛布をぎゅうっと握りしめている。
本に栞をはさむのを忘れて、思わず閉じてしまった。
パタンという、小さな音だけが響いて。
俯いたままの千石は微動だにしない。
いや、これ。どう考えたって寝惚けてんだよな?
くだらない夢なんか見やがって。
はぁっと溜め息をひとつ。
身体ごと千石を向くと腕を伸ばし、そっと抱き寄せる。
ぴくりと反応して、ゆっくりと力が抜けていくのがわかった。かかる温かな重みに気付かれないよう苦笑を漏らす。
愛されているのには慣れているの筈の千石。
他人の感情の機微に聡い、この男は俺の気持ちだけに疎いらしい。
いや、他人のモノならば垂れ流し状態でわかりやすいという。
ただ俺のモノだけ。
俺の気持ちや感情の移ろいは、探ろうにも寄せては返す波のようで掴まえようとするとスルリと手から零れていくらしい。
千石は「不思議だよねぇ」と心底そう思っている顔でそう告げたことがあった。
なぁ千石。それが意味することがオマエにはわからないか?
問うても「わからない」と首を振るだけだったが。
言葉はオマエに届けているはず。
俺の言葉さえも疑うつもりなのか、オマエは。
「なぁ千石」
「・・・・・・?」
「俺がもし、他のヤツにこうして触れてもオマエは俺のことを許してくれるんだろう?」
「・・・・・・」
ビクリと揺れた肩が俺から離れようとするのを押さえ込む。
囲われた腕が解けないと知ると千石は大人しくなった。
目が。
気持ちが。
心が。
誰に向いてるのか、疑われて笑って許せるほど俺は出来た人間じゃない。
それも限られた人間。ただ1人の相手のオマエに。
くだらない夢に踊らされて、俺を見誤るか。
たかが夢。けれど、それすらも俺には許せない程オマエに惚れているのに。
見られたら関係を断ち切られそうな笑みを浮かべて、千石を抱きしめる腕に力を込めた。
「確かに南はカワイイよな」
「・・・・・・」
「まっすぐで傍にいて気持ちが和らぐ」
「・・・・・・うん」
「でも顔の綺麗さでいえば氷帝の跡部か」
「・・・・・・え」
「あの性格は遠慮したいが捻じ伏せるのも良さそうだし。そういや氷帝にはたおやかだが華のある滝ってのもいたな」
「・・・・・・」
「クールビューティで言えば、青学の手塚か?線は細いが芯は鋼のように潔い立海の幸村とか?六角にも可愛がってみたいタイプの人間が多いよな」
と、そこまで言って肩に温かいモノを感じた。
耳に届く「う〜」と堪えている千石のちいさな声。
抑えきれない涙が頬を伝い、俺の服を濡らしているらしい。
やれやれ。
無自覚の人間はコレだから困る。
涙ひとつ、抑えた声でさえ、こんなにも俺を揺さぶるなんて考えもしないか?
あやすようにぽんぽんと背中を撫でてやると千石は見を捩った。
どうやら機嫌を損ねたらしく。
服を握りしめていた手が拳を作って、俺の背中を叩き出した。
大してというか、ほとんど痛みは感じられない叩き方。
叩き続ける拳を掴むと微かに震えていて、その力の入らなさから痛くしないじゃなく出来ないんだとわかった。
「けどな?」
「?」
「俺はソイツ等よりもオマエが、オマエだけが好きだって言ってるんだ」
「!」
「いい加減、学習してくれ」
心底呆れたようにそう続けると千石は微かに頷いてくれた。
ぎゅうっと抱きしめた千石の肩越しに見えたのは雲ひとつない秋晴れの空。





04 * ジャブン

ジャッカルの寝起きは悪い。
というか、生気がないというほうが正しいのか。暴れる訳でも機嫌が悪くなる訳でもないし。
(それで言ったら合宿の時、明らかに不機嫌な顔して無言のまま枕を凝視してた幸村とかのほうが怖いだろぃ)
「ジャッカルーそろそろ起きろよー」
朝メシの準備できたんだけどなーとエプロンをつけ、おたまを持ったままのステキな恰好をした俺はジャッカルが潜り込んでいるあろうこんもりと丸くなったシーツの膨らみへと声をかけた。
が、もぞりとも動く気配はなくて。
やれやれと息を吐く。
ジャッカルが時間どおりに起きてくることはまずないと言っていい。
一年を通して寝汚い感じがするが涼しく寒くなってくると、それは笑えるほどわかりやすくなってくる。
つまり、過ごしやすくなって来たこの時期に普通に声をかけて起きろというのが無理な話という訳だ。
「けど、そうは言っても起こさねぇと朝メシ喰えないしなー」
ちらりと部屋を見やる。
ヨシ!
うん、と頷くと、とりあえず持っていたおたまを放り、ジャッカルが丸まってるシーツの山へと手を掛けた。
「・・・ジャッカル?」
「・・・・・・う、ん?」
端っこをつまみシーツを持ち上げるとジャッカルの横顔が覗く。
指で突付いても、もぞもぞと動くだけで目は開かない。
すーっと戻ってしまった寝息に頭をガシガシ掻く。
もう一度、ちらりと部屋へ視線をやってジャッカルの上へと覆い被さった。
「こら起きろ、ジャッカル」
コイツ以外聞かせない声で名前を呼ぶと、微かに反応あり。
おお。
俺って愛されちゃってる?
「起きねーと襲うぞ」
「・・・・・・」
「忠告はしたかんな。恨むんなら自分の寝汚さを恨みやがれ」
耳元でそう呟いた後。
ぺろりと舐めてみる。お、またもや反応あり?
目蓋や鼻筋、口唇へと触れていくと段々と乗ってきて止まらなくなった。
初めは触れていただけだったのが本格的なキスへと変わっていって。つられるように薄く開いた口唇を割ると舌を差し入れた。
「・・・・・・んっ!」
思わず鼻にかかる声が洩れて。
ぎょっと身体を起こそうとした。
が。
「・・・・・・何だよ、もう終わりか?」
「なっテメ、起きてたのか」
「馬鹿。目が覚めたんだよ、つか覚めるだろーが」
こんな事されりゃーな。
ジャッカルは独り言のように呟くと、いつの間にか回されていた腕で俺を抱き寄せた。倒れ込むようにしてジャッカルの上へと引き寄せられる。
「あ」と思った時にはあっさりと身体を入れ替えられて、俺が下になってて。
落ちてくるジャッカルの口唇に、誘うように目を閉じた。
「いや、ソコで始められても俺困るんスけど」
「「あ!」」
がばりとジャッカルと2人して起き上がる。
同じように布団に起き上がり、掻いた胡坐の上に片っぽで頬杖をついた赤也が「ふわぁ」と欠伸をしながら俺たちを見ていた。
たった今起きました、というその顔。
くせっ毛は寝癖とかわかりづらくていーよな、なんて思ってる場合じゃなかった。
「マジで俺の存在、忘れてませんでした?」
「・・・・・・いや、そんな事は」
「いやもう。キッパリハッキリ忘れてたっつーの!」
誤魔化そうとしたのはジャッカル。
俺はといえば邪魔されたのはやっぱり嬉しくない訳で。
しかも赤也が泊まりに来てたことなんて(ジャッカルの部屋じゃなく和室に布団を敷いて寝たんだっけか)すっかり頭から落ち抜けてたのはホントだから噛み付くよーに言い放った。
そんな俺を横目で見て、ジャッカルはがくりと頭を垂れた。
「いやー何て言うの?なんか親のHシーン覗き見た子供の心境ってこんな感じなんスかね?」
「・・・・・・」
「知るか!」
アハハと朗らかに感想を述べてくれた赤也にジャッカルは溜め息をつき、悪態を吐いた俺はそのジャッカルが着ていたTシャツを引っ張った。
思い切り引っ張ったおかげでジャッカルが俺へと倒れこんでくる。
空いていた方の手でその頭を掴み、引き寄せると噛み付くようなキスを仕掛けた。
「あー俺、邪魔みたいなんで先にあっちで朝メシ喰っちゃっててもいースかね?」
赤也の問いに手を振って答えると「ごゆっくりー」と寝巻き代わりのTシャツ姿のまま和室を出て行った。
パタンと襖が閉まった音に。
ジャッカルと顔を見合わせて笑いあう。
後輩の気遣い、無駄には出来ないよなーなんて、ほざきつつ。
秋の気配で冷たく感じるシーツの上に身を委ねた。