南誕生日編


俺の誕生日である7月3日といえば、毎年、外されることなく1学期の学期末試験中な訳で。
お祭り好きの千石を筆頭にテニス部の連中が「お祝いしようよ!」と言ってくれるのだが、そこはそれ。部長である俺が試験勉強をほっぽってまで祝ってくれとは言える訳もなく。
(というか、アイツ等のは勉強が嫌だから騒ぎたいというのが、かなりの高確率での本音じゃないだろーか?)
別に祝って欲しくないという訳でもないがスルーされるのもやっぱり悲しかったり。
そんな訳で俺の誕生日は毎年、試験明けに打上げ込みで行われるのだ。

「じゃあ、また月曜日にね!」
「おー後1日だしな。頑張ろーぜ」

いつも別れる曲がり角で千石と東方の2人と挨拶を交わす。
ホントなら今日は土曜日で学校は休みなハズなのに、試験休みの調整のおかげでわざわざ(自分の誕生日に!ありえなさ過ぎ!)登校して試験をやらされるハメになった。
それでも、運を味方にして常に学年上位の千石と、わざと手を抜いてんじゃねーかと思わせる微妙な高得点を叩き出す東方の足取りは軽い。
そりゃ大して勉強しなくても点数が取れる奴等はいいよなぁ、なんて思いながらその後ろ姿を見送っていると。
ペシリと後頭部を叩かれた。

「・・・・・・おら、帰るぞ」
「あ、うん」

そんな俺の隣にはめずらしく学校から一緒の亜久津。
普段なら出て来ないことも結構ある亜久津だけれど試験だけは真面目に学校にやってくる。休んでも、どうせ後日やらされるんなら同じだというのがその理由。面倒だから早く終わらせたいと言うことらしい。

でも、俺は知ってる。

「そうだ、亜久津。数学と英語でさ教えて欲しいトコあるんだけど、お願いしてもいい?」
「・・・・・・ああ」
「じゃあこのまま俺んち直行な」

今日は誰もいないから静かでいーと思うんだけど?
そう続けた俺の言葉に、隣を歩く亜久津の横顔にホンの僅か浮いた嬉しそうな、どこかホッとしたような表情。
くすくす笑い出したい気分をどうにか抑えて、ちらりともう一度、亜久津を見やって足を踏み出す。

俺は知ってんだよ?

追試が面倒くせーとか言ってるけど本当は、今日のこの俺の誕生日のために学校に出て来てくれてるってコト。
それがバレないように面倒くさくても、毎回、他の試験にも律儀に出てくるコト。
そして、脇に挟んだ薄っぺらい鞄の中に俺へのプレゼントが入ってるコト。

だけどさ、亜久津。
本当に俺がいちばん嬉しいのは俺の生まれたこの日、それを祝おうとしてくれるおまえの、その存在。
言葉やモノが嬉しくないワケじゃない。
でも隣に、傍にいてくれることが本当に嬉しくて。

「・・・・・・ありがとう」

口の中で呟いた言葉は亜久津には聞こえてない筈なのに。
ごった返す雑踏の中。
触れ合った小指を絡めてきた亜久津の気持ちに泣きそうになった、誕生日。