WEBCLAP LOG - キ ス


01 * 赤福

「ねぇ福士くん。目、閉じて?」
そう言うときょとんとした顔で福士くんが俺を見た。
首を傾げるようにして聞き返す様子は可愛いのだけれど。
「なんで?」
「なんでって・・・あのね、福士くん」
「うん?」
鼻先1センチ。息遣いも意識しなくてもわかるほど。
これだけの至近距離で、しかも目を閉じてと言われたら、普通少しくらいは「あれ?」とか思わないモンかな?
じっと気持ちをこめて見詰めると同じように見詰め返されて。
瞬きするたびに睫毛のパチパチという音まで聞こえてきた。
数秒後。
視線を逸らしたのは俺のほうだった。
いや、だってさ?
この人って俺がキスしようとしてるだなんて事、これっぽっちも思いつかないみたいで。
なんだか俺ばかり邪まな気持ちでいるみたいに感じてしまう。
「福士くんってさ天然とか言われない?」
苦笑しながら言うと、かぁっと頬に朱を昇らせた福士くんがぎっと俺を睨みつけてきた。
そんな顔されても俺としては煽られるだけなんだけどねぇ。
「煩いなっ!だったら何だっ!」
「あはは。図星?」
「・・・・・・・・・・・・っ」
福士くんがぐっと息を飲んだ。
やっぱり言われてる訳ね。
気まずそうに視線を落とした福士くんは指先で遊んでいる。もじもじしてる福士くんを見やった俺はやっぱり苦笑するしかなかった。
そんな俺をどう思ったのか、福士くんが上目遣いに見上げてきた。
うわ。だから、そういうの反則だっつの!
キスしようとしてた人間に隙を見せてどうするつもりかな〜この人。
目で「何?」と問えば、また気持ち俯かれて。
「福士くん?」
「・・・・・・すれば、いーじゃん」
「はい?」
「だからっ!したかったら、すればいーんだよっっ!」
ぽかんとした俺を潤んだ瞳で睨みつけている福士くんの顔は真っ赤っかだ。
「えーっと・・・」と呟きながら福士くんと見詰め合ったまま、頭を働かす。
もしかしなくてもコレってOKが出てるって事なのかな?
浮かんだ答えに思わず頬が緩む。
もはや拗ねてる状態で俺を睨みつづける福士くんへと向き直る。さっきと同じくらいの距離で福士くんを見詰めた。
かすかに震えてる福士くんはそれでも俺から視線を外そうとはしなかった。
「・・・・・・いいの?」
「〜〜っだから言ってんだろーが!何度も言わせんなっ!」
「いやそうじゃなくって。俺、福士くんにキスしちゃってもいいの?」
「!」
「何度も何度もしちゃうよ?」
「・・・・・・・・・・・・う、ん」
「嫌だって言っても多分しちゃうよ?」
それでも?と重ねて言うと本当にこれ以上は無理だってくらい真っ赤っかな顔になった福士くんが小さくコクンと頷いた。
「・・・・・・・・・・・・もう止まんないからね」
そろりと手を、熱を持ってる頬に伸ばす。
ピクンと肩を震わせた福士くんが泣きそうな顔で俺を見た。思わず手と寄せていた顔の動きを止めた俺に福士くんの手が重なって。
小さく笑った。
それは泣笑いの表情でしかなかったけれど。
「・・・・・・・・・・・・俺だって、おまえとキスしたい」
気持ちを伝えようと必死になってくれたことが物凄く嬉しかった。
厳かな儀式のように口唇を寄せると福士くんの目蓋がゆっくりと下ろされて。
触れた口唇の熱に、俺のほうこそ泣きたくなった。
福士くん大好きだよ?





02 * 亜南

comming soon





03 * 東千

昼下がり、ぼけっとTVを見てた俺は物音ひとつしなくなった部屋のしぃんとした空気に後ろを振り返った。
リビングのひとりがけの肘掛け椅子で本を読んでいたはずの東方はいつの間にか眠ってしまっていたみたいで。半分ほど読み進んだ頁を開いたまま、背もたれに身体を預けて寝息も穏やかに爆睡中だった。
そろりと近寄る。
東方は俺より後に寝て先に起きる人なので、なかなか寝顔を見せてくれることがない。
べつにわざとそうしてる訳じゃないとは思うけれど、こうやって無防備に寝てることは本当に稀で。
起こしたくないと思ったのがひとつ。
最近の東方は何だかんだと祖父宅に呼びつけられることが多く、会う時間もままならなくて。久しぶりにゆっくりできると言われ、喜び勇んで来たはいいもののどことなく疲れた顔をした東方に無理は言えなくて。
だから起こしたくないなと思ったのも本当。
でもそれ以上に東方の姿をじっくりと眺めたかった。
好きな人の姿を、色褪せないように目蓋に焼き付けたかった。
東方は何も言わないけれど。
お祖父さんに呼びつけられて何をしてるのか大体はわかっているから。
政治家をしてるというお祖父さんがあらゆる能力に恵まれた、将来有望と誰もが口を揃える孫息子をどうしようかなんて考えなくてもわかるから。
もしかしたら、このまま離れることになるかも知れないと、ここ最近考えることが多くなった。
当たり前のように毎日会って、身体を重ねてた俺たち。
寂しくない訳がない。
でも我が儘を言うほど、東方の事を知らない訳でもない。
結局。自分の気持ちには蓋をして東方に笑うことしか今はできない。
どこに行っても構わない、だけど帰ってくるのは俺のトコに。東方もそう思ってくれてるから俺を呼んでくれたのだと思う。
次はいつ会えるかわからないから、せめて姿だけでも俺に焼き付けさせて。
俺は待てるから。
かすかに上下する広い胸に頬を押し付けていたら、涙が浮かんできた。
待てるけど。
やっぱりそばにいることができないのは寂しいから。
溢れそうになった涙をぐっと堪えて身体を離した。
「・・・・・・東方、寝てる?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・寝てるよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
暗い、自分のそんな気持ちを吹き飛ばしたくて。
わざと明るく振舞った。
誰が見てるわけでもないのに、俺は大丈夫だからと言い訳したくなった。
「じゃあ色んなトコにキスしちゃおうっと!」
起こしちゃうかな?と思いながら東方の首に手を回した。
そぉっと顔を近づける。
久しぶりに間近で見る東方の顔に少しだけ照れてしまう。男前だよなと思う。外見もだけど中身も、東方は万人に誇れる俺の大切な人だから。
ああやっぱり好きだなぁと思ったら、ドキドキし始めてしまって。
これまで何度も、それこそ数えられないほど身体を重ねてるのに。いざキスしようと改めて傍へ寄ると恥ずかしさが勝ってしまって身動きが取れなくなった。
うわぁどうしようと考えているといきなり腰を引き寄せられた。
吃驚した俺は声も出なくて、唖然と東方を見下ろした。東方は目を閉じたまま口の端に薄く笑みを浮かべていて。
狸寝入りだったかのか!?なんて思った時。
「・・・・・・いいけど」
薄めの口唇から笑いを堪えた声で呟かれて。
「・・・・・・東方、起きてたの?」
なんだか無性に恥ずかしくなった俺は咎める口調になって東方を見下ろした。
下ろされた髪の下。
目を閉じたまま笑っている東方の顔に見惚れてしまう。
魂が抜かれたみたいにぼぅっと見詰めていると引き寄せられていた腰を掴まれて、座っている東方の膝の上に乗り上げる形になった。
「された分はきちんと仕返ししてやるから、好きなだけどうぞ?」
「!!」
ふわりと笑われて、俺は真っ赤になった。
腰を掴んでいた手が背中に回されて、きゅうっと抱き締められた。伝わる体温に泣きそうになる。
「俺はおまえを手放す気はないから」
「・・・っ」
「今はふらふらして見えるかも知れないけど。知らない何処かにひとりで行くことはないから」
「・・・・・・東方」
「おまえには泣かれたくないんだ。俺のエゴかもしれないけど、おまえには笑っていて欲しい。俺の隣で、ずっと」
うん、と返事をしたつもりだったけど。
滲んだ視界に東方の黒い髪が見えて、思わず掻き抱いた。
いつもの東方のにおい。
そうだ、東方は俺の傍にいてくれるんだ。
「・・・・・・泣くなよ」
「泣いてないよっ!」
うわぁんと声を上げた俺に東方は苦笑して抱き締めてくれた。
まるで子供を抱っこしてるような感じだったけど、全身を包まれる感触に益々涙が溢れてしまって、どうしようもなくなった。
「キスしてくれるんじゃなかったのか?」
「・・・・・・東方がすればいいでしょ!?」
「俺?」
「・・・・・・東方がいっぱいしてくれれば、俺もいっぱいいっぱい、お返しするからっ!」
喚いた俺に一瞬ぽかんとした東方だったけれど。
「なら、そうして貰うか」
呟いて、すぐさま俺の口唇は東方に貪り喰われることになった。
噛み付くようなキスに、触れ合ったそれだけでイキそうになった俺の様子に気づくと東方はにやりと笑った。
抱き上げられた東方の腕の力強さに幸せを感じた。
部屋のある2階へと上がる階段が天国のそれと重なった、なんてことは言えないけれど。東方も似たようなことを思ったのか目が合うと小さく微笑まれた。
俺たちはこれからも大丈夫。
一緒に歩いていけるから、どこまでも行こう?





04 * ジャブン

「じゃあ次、これ〜」
ソファに深く座り雑誌を読んでいたジャッカルににじり寄り、ブン太が口唇を突き出した。
腰から屈めて、その口唇に自分のものを重ねたジャッカルが眉間に皺を寄せた。
「・・・・・・なんだ、これ」
「それを当ててっつってんの!」
「さっきからクソ甘ーのばっかじゃねーかっ!」
「そりゃそーだよ。ガムだもん」
「・・・・・・・・・・・・あー、まぁな」
普段から甘いモノを口にしないジャッカルにとっては甘いだけのガムなんて無用の長物だ。
それでなくとも楽しそうに見上げてくるこの恋人兼ダブルスパートナーは日常的に甘い匂いをさせているから、それだけで腹いっぱいという感じなのに何かというとガムの味の当てっこをしようと持ちかけてくる。
「ねぇ何味かわかった?」
「触れただけでわかるかっ!」
「そーお?じゃあもう一回」
そう言うとブン太の手がジャッカルの膝にかかった。
反動をつけてその膝に馬乗りになると首に腕を回し、口唇を寄せてくる。
ふわりを甘い匂いが漂って、ジャッカルの鼻腔をくすぐる。
嫌いだとは言わないが好きでもない、どちらかと言えば苦手な甘い匂いに意識がかき回される感じがして思わず目を閉じた。ちょんと口唇を突付かれて少しだけ開けるとブン太の舌がするりと入り込む。
舐めるように動く舌に自分のものを絡めると膝の上でブン太が身じろいだ。
仕掛けるのは好きなくせに反撃にあうとすぐ白旗を振る。
読んでいた雑誌のちょうど面白い記事のところで中断させられた腹いせもかねて丹念に口腔を舐め上げてやるとブン太の腰が逃げをうつ。
「・・・・・・どう、わかったのかよ?」
「まだまだ、だな。もう一回いいか?」
「!・・・・・・ジャッカル、本気でしてんの?」
「してるだろーが。まだ正確にわかんねーからもう一回挑戦させてくれ」
「・・・・・・・・・・・・怪しい」
首に腕をかけたまま首を傾げたブン太にジャッカルがにやりと笑う。
ジト目で見詰めてくるブン太の腰に腕を回すと自分のほうへと引き寄せた。
ちょうど互いのモノが感覚的にわかる位置にきて、はっとなったブン太の頬に朱がさした。
まるで誘っているかのように目が伏せられてジャッカルも苦笑を浮かべた。
もう今更照れるような間柄でもないというのに中々慣れる様子のないブン太の態度。自分から仕掛けてくることも多いくせに恥らうことが常で、試されている気分になる。
さてどうしたもんかな、といつもの癖でブン太の腰を撫でていたジャッカルの手がふと止まる。
「・・・・・・ジャッカル?」
「ブン太おまえ太った?」
「・・・・・・・・・・・・そ?」
目が合いかけた瞬間、ぱっと逸らされて。
ジャッカルのこめかみがひくついた。
「何だよ、その間は」
「気のせいじゃない?体重は変わってないよ」
「・・・・・・そぉかよ?なんか怪しいな」
「変わってないって言ってんじゃんっ!」
喚いたブン太がぎゅうっとジャッカルの首に抱きついた。
いかにも嘘ですと言ってる風なブン太の態度にジャッカルは溜め息をつく。あやすように背中を撫でてやるとぎっちりしがみついていたブン太がそろりと身体を離した。
至近距離で見詰めあう。
膝に座った分、少しばかり目線が高くなったブン太をジャッカルが見上げると何とも言えない表情をして見下ろされた。
「体重は増えてないと思う、けど」
「けど?」
「やっぱ太めだと嫌?」
「別に。どっちかと言えば、ガリガリより肉付きのいいほうが俺は好きだけど」
「・・・・・・ふぅん?」
ちょっと考えるように言葉を吐き出すブン太にジャッカルが笑みをみせた。
「俺はおまえだから好きなんだって言ってるだろーが」
「・・・・・・うん」
「ただな?喰いすぎには気をつけろよって言ってんだ」
「うん」
「で、結局どうなんだ?」
「え?」
「やっぱ体重増えてんだろ?」
「・・・・・・っ」
顔を覗き込むとぱっと逸らされる。
「ブン太」と名前を呼んでもジャッカルのほうを向かない。
「・・・・・・太ったんだな?」
「っうーるさいっっ!」
言うが早いか、ちゅうっと吸いつくようにキスをされて。
「おまえっ誤魔化すつもりかっっ!?」
喚いたジャッカルの口はブン太のもので塞がれた。
始めは抵抗を見せていたジャッカルも段々と気分が乗ってきたようでブン太の赤い髪に手を差し入れると動けないくらい抱き寄せた。
はぁっと熱い息をはいたブン太が潤んだ瞳をジャッカルに向けた。
目が合うと2人して自然と笑みが浮かぶ。
「答えられないなら身体に直接訊くか」
「・・・・・・おっさんかよ」
シャツのボタンにジャッカルの指がかかって、ブン太がジャッカルにしか見せない艶然とした笑みをみせた。