V . D 狂 想 曲 * 氷帝編


「あーとうとう今年も『あの日』が来るのかー・・・」
心底うんざりしたような声音に雑誌を読んでいた忍足が顔を上げた。
頬杖をついたダブルスパートナーの向日が嫌そうに眉根を寄せている。その視線の先を忍足も倣って見やる。
二人の視線の先にあるのは壁に飾られたカレンダー。
「・・・あぁもうそんな時期なんかー」
「これ単位で考えると一年て早いよな」
二人して大きくため息をつくと向かいの席に座って課題をしていた滝が苦笑した。
「それ、ココで言う分にはいいけど、部室の外じゃしないほうが懸命だね」
「それはわかってるけどさ。でも去年も凄い事になってたじゃん・・・今年はレギュラーだったっていうのがあるし」
「部室中に匂い充満してなぁ2、3日取れへんかったよな。アレ自体は嫌いやないけど、あそこまでなると考えもんやわ」
貰えるかどうかで一喜一憂してる周りの友人知人たちを見ていると贅沢な悩みだと喧嘩を売られそうだが、こっちだとて本当に冗談なんかで済む問題ではないのだ。
ポーズに見えるかもしれないが本人たちにとっては切実な事だったりする。
校内は元より、通学帰宅道中でまで渡されたりすればその数も膨大で。
本命+義理だとダンボール数箱がすぐに埋まってしまう。
個人でその状態なのだから、いつもつるんでいる連中を合わせるとホント冗談ではない。
そこまでくると嬉しさなんて通り越してしまう。
「・・・・・・・・・・・・」
思わずその状態を思い出してしまった三人は、はぁっと大きなため息をついた。
「・・・俺は貰えるとやっぱ嬉しいけどなー」
ベンチで寝ていたはずのジローが上半身を起こすと寝惚けた顔でのほほんと言う。
「好きだって言ってもらえると嬉しいでショー?」
「・・・まぁなー、ってだから問題はそこじゃねぇんだよっ」
「えぇータダでいっぱい食べれるんだよ?文句ないじゃん?」
「・・・・・・」
食べても食べても減らない山と詰まれていたのを思い出した三人はひとり嬉しそうに目を輝かせるジローを横目で見やった。
義理で貰ったものは200人を数える部員達の腹にも収めてもらったが、本命だというモノまでは他人の口に入れる訳には行かない。
ただ一人、本命だといって貰った数が群を抜いていた男は元々甘いモノが嫌いだと言うこともあって、一つを残しどれも口にはしなかったが。
流石にそれを真似する訳にも行かず。
涙目になりながら辟易しつつも腹に収めたのだ。
一週間ではきかないあの日々はとてもじゃないが良い思い出だとはいえない。
それは今現在のほほんと笑うジローも同様だったはずだった。
三人はちらりと顔を見合わせた後、ジローへと視線を向けた。きょとんとジローが三人を見回す。
「え。何ー?」
「ジローはさ去年は何個『本命』貰ったか覚えてるか?」
向日に言われて「えっとねー」と考えるジロー。
「えー・・・っと、32個?」
「それを全部、食べ終わるまでには何日かかったかも覚えてる?」
滝ににこやかに言われ、雲行きが怪しくなってきたことに気づいたジローの眉根が寄った。
一二三、と指折り数えていた動きが鈍くなる。
「・・・俺は九日、だったっけ・・・?」
「正解。ちなみに俺は46個で二週間やった。良かったなぁジロー、今年もまたチョコ漬けの日々がやって来るで!」
「・・・ぅあー・・・」
とどめに忍足がにっこりと笑って、カレンダーの14日にでかでかとマークされた髑髏印を指差した。
その後、ため息をつくの人数が四人になったのは言うまでもない。