たとえば、キミが

「また喰ってんのか」
げんなりしたような声が降って来て、ブン太は顔を上げた。
HRがやっと終わったのか制服姿のジャッカルがテニスバッグを背中にブン太の後ろに立っていた。
すでにテニスウェアに着替えていたブン太は顔だけ振り返る。
「悪ぃ?腹すくんだもんよ」
言ったそばから「あーん」とケーキを手掴みで頬張る。
生クリームが口の回りを汚そうが、頬や指にべったりとつこうがお構いなしだ。
元々甘いモノを口にしないジャッカルにとっては気色悪い状態でしかない。
しかもそれだけには留まらないから口を出すのだが。
「今から身体動かそうって時にバクバク喰うのはどうなんだ?」
「だから喰うんデス!」
「あーそうデスカ」
他の部員達はもう慣れっこになってるせいか、部室の中央に置かれたテーブルの上に菓子類が散らばっても気にならないらしい。
中には新製品を見つけて分けて貰っている者もいたりして。
ジャッカルが窘めるのもいつもの事と右から左だ。がやがやとうざったくはない喧騒の中、はぁっとジャッカルは溜め息をついた。
どうせ言っても気にしてくれないだろうなーとは思ったが、やはり気にもなっているし、一言言っておくつもりだったから逡巡してからブン太へと近づいた。
「・・・・・・何?」
近寄ったのは良いもののどう言おうかと考えていると視線に気づいたブン太が怪訝そうにジャッカルを見上げる。
言いにくそうに口篭もったジャッカルだったが、はぁと一呼吸ついて口を開いた。
「・・・・・・なぁ」
「んー?」
「おまえ最近太った?」
ブン太がジャッカルを見る。ジャッカルがブン太を見下ろす。
何事かと他の部員達の視線もジャッカルとブン太に集まる。
「えー・・・そう?」
「ああ。つうか太っただろ」
確信的な物言いをされて、ブン太の目が泳ぐ。
まだ食べようとケーキに伸ばしかけていた手が引っ込む。それを横目で見やったジャッカルが「やっぱりな」と大きな溜め息を吐いた。
「でもホンのちょびっとだし」
ジャッカルのやれやれといった表情にブン太が口を尖らせて言い募る。
中学生の食べ盛り伸び盛りの人間に腹が減ってて食べるなというのも酷な話で。
テニスするのにもエネルギーを補充しておかないととてもじゃないが身体が持たない。
ブツブツと言いたい事を並べていたブン太だったがジャッカルのついた溜め息にちらりと見上げた。
「気ぃつけてるって!」
「・・・・・・・・・・・・そうかよ」
「そうだって!信じてねーのかよ」
「おまえな。信じるも何も乗っかられる俺の身にもなれよ」
「!・・・って、俺がいっつも乗っかってるよーな言い方すんな!」
ぎゃあぎゃあと喚いたブン太を無視して、腰のあたりとかサイズがちょっと増えてるんだよなーと両手で掴む仕草をしたジャッカルに部室がしんと静かになったのは言うまでもない。
顔を真っ赤にさせ口をパクパクとさせたブン太にジャッカルが微笑んだ。
「まぁガリガリな身体よりかはマシだけどな?」