対角線

なんでコイツの動きっていちいちヤラしいんだろ。
ハードな練習を終えて部室に戻り、汗を掻いたシャツを脱ぎ捨てたところで隣で着替えるジャッカルを仰ぎ見た。
同じように汗で濡れたシャツを脱いでいて。
腕を交差させ裾を掴むと勢いよく引き上げて、そのまま頭まで引き抜く。
途端に現れるなめらかな褐色の肌。
ハーフだからか、真田や柳とそう大して変わらない身長なくせに微妙に体つきが違う。
真田みたくがっしりとしてる訳でも柳みたく細身な訳でもなく。
ある程度完成したような無駄なものが一切ついてない身体。豹だとかそういった猫科の動物を連想させる、しなやかな肉体。
そういやコイツって名前自体もそんな感じだったっけ。
ていうか『ジャッカル』って猫科?
つらつらと意味のないことを考えてると張りついたシャツから腕を引っこ抜いていたジャッカルが振りかえった。
目が合うと少しだけ怪訝そうな顔をされた。
「何してんだ」
「・・・・・・着替えてる」
「それはわかってる。手が止まってるって言ってんだ」
言われて「ああ」と自分もシャツから腕を引き抜いた。
だって、どうしたって目がコイツに向いてしまう。気を逸らそうにも目の前にいれば視線は他所になんて向かないし、違うこと考えようにも気づけばコイツのことに繋がってて。
それでも思い切って視線を外そうとした。
う、わ。
瞬間的に顔に上った熱さを隠したくて、咄嗟に手に触ったタオルで自分の顔を覆った。
どうかしてる。一緒にいれば何でもない仕草なのに。
汗の流れる首の後ろを下から上へ撫で上げる手の動きに欲情したなんて絶対どうかしてる。
どうして、コイツの動きっていちいちヤラしいんだろ。
顔の熱さはすぐに消えなくて益々タオルに顔を埋めることになった。
「・・・・・・おい?」
その時、くいっとタオルを引っ張られて。
間違え様のない声と見えた指先にドキリとした時はもう遅かった。
「それ俺のだぞ」
「え・・・・・・や、ちょっと」
タオルの感触が顔からなくなって、視界に広がる褐色の肌に思わず見上げるとまた怪訝そうな顔をしたジャッカルが俺を覗き込むように見下ろしてて。
目が合った瞬間、今度も気まずそうに変な動きで目を逸らしたのはアイツのほうだった。
そして、取り上げられたと思ったタオルを頭からふわりと被せられた。
唖然としてた俺も我に返るとタオルの影から、そぉっとジャッカルを窺った。
ちらりと見えたジャッカルの肌が薄く色付いていて。
『あの』時の肌の状態を知ってて、尚且つ十数センチしか離れていない距離だからこそわかるその様子に思わず息が止まった。
いやだって、これって。
もしかしない?
「おまえのその顔、ヤラシすぎ」
タオルの上から頭を掴まれたと思ったら耳元でそう囁かれた。
やっぱりなと頭の隅で思ったけど口になんか出せない。
お互い様だろーが!ていう俺のツッコミはタオルに吸われて消えていった。
なんだ結局どっちもどっちていうことか。
2人して火照った身体の熱を持て余すことになって身動きが取れなくなったのは困った。
ただもう笑うしかなかったけれど。