心の天秤

アイツの視線はいつも前を向いてる。
そいつが誰を見てるかなんて、わかりきった事なのに。
それでも前しか見ないそいつと一緒に前だけを。
「キツくないのか」
隣で同じようにアイツを見てたジャッカルの呟く声。
答えを期待してない、独り言だというのはわかったけど。
「キツい?なんで?」
返ってくる答えもわかってたけど、あえて口に出した。
気分的には独り言のつもりで。
俺だって答えを期待した訳じゃない。
なのに、なんでっ・・・て、口篭もったジャッカルの困った様子に少しだけムカツいた。そんな事言われるとは思わなかった、そんな態度に。
なぁジャッカル。
その言葉が、たった一言が俺をどれだけ傷つけるかなんて、おまえはちらりとも考えもしないんだろう?
俺と仁王はこちら側。おまえと真田はあちら側。
それだけの事がこんなにも溝を作る。
進むことを望んだのは俺。
けれど、今のこの状態を願った訳じゃない。
「報われなくても報われても、どうするか決めるのはアイツの話だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「他人が口出すことじゃない」
きつい口調だなと自分でも可笑しかった。
口の端に浮かんだちいさな笑いと一緒に涙が浮かんで。
にじんで霞んで見える視界の向こうに、背中を向けた真田を見詰める仁王の姿がぼんやりと見えた。
仁王に自身を重ねて、自分がしてることの意味を無にしたくないだけなのだ。見てるだけでも幸せなんだからと言い聞かせて。
その先を望んじゃいけないと。
溢れる涙が心も気持ちも流してくれればいいなと思った。