キスの温度

コイツの突然の行動はいつもの事だが。
あまりの出来事に唖然として見やれば、何でもなかったかのように素知らぬ振りで隣を歩いていて。
「・・・・・・おい?」
知らず低くなった声が自分のものではないような錯覚。
だってそれは、あまりにも突然で。
衝撃で。
その事実が脳に伝わって、その意図を意味を考えるのはしようのないことだろうが、答は知りたくなかった。
いくら考えてもその答えは、自分が心から渇望するものとは懸け離れたものだろうから。
だから無性に腹が立ったのかもしれない。
「・・・・・・どういうつもりだ」
「そのまんまの意味」
わからない?
そう横目で見上げられて、笑ってはいるがその瞳に揶揄いの色はちらりとも見えなくて、また唖然と見下ろすハメになった。
俺の望んだものをおまえがくれるとそう言うのか?
他の誰でもない、おまえが?
信じられなくて、かなり怪訝そうな表情をしてた俺に何を思ったのか。
1メートルあった距離が縮まって、気付けばすぐ傍にあったのはアイツの顔。
「・・・・・・それ、って」
「こういう意味」
目を閉じるアイツの表情をスローモーションのように感じた。
伏せられた、かすかに震える睫毛。
閉じて尚、そこらの女みたいにくるんと上を向く長めの睫毛が薄く影をつくって。震えて見えるそれはひよこだとかそういった小動物を連想させて触れてみたいと思った。
鮮やかな髪の色より少しだけ色素のうすいそれを見詰めていると、また口唇に温かい感触。
キス、されていた。
「わかんないなら、わかるまで考えろ!バカ!」
口唇が離れたと思ったら、叫ぶようにそう告げてアイツは走って行ってしまった。
自分から仕掛けてきたくせにこれ以上は無理っていうくらい真っ赤な、泣きそうな顔をして。
唖然として見送るしかない。
残された俺はキレた真田に言われ柳生が呼びに来るまで、その場所に座り込んでいた。
こぼれる笑いに身体を委ねて。