光野浩一、某日の記憶のかけら。


May.8th.2016



冨田勲氏の訃報を目にして言葉を失った。

 

美術の世界に身を置く自分ではあるが、芸術家の精神や職人気質について目覚め、理解したのは冨田作品との出会いによる。

超絶技巧によるパッチング、気の遠くなるような何重もの録音、ノイズ変調を得るための遠隔地オンエア、金管を通した共振録り、多チャンネルによる音場の創出、恒星の電磁波の音源化、vocaloidを指揮者に合わせる、など彼の想像力の幅広さや制作の工夫・労力を示すものは枚挙に暇がない。

先駆的なシンセサイザー奏者・大作曲家など肩書は多いが、それらすべては理想の音楽のために探求の手を緩めない冨田氏を断片的に語るものでしかない。CG・河口洋一郎氏とのコラボレーションやアルス・エレクトロニカ等でのサウンド・クラウド演奏など現代美術との関わりや造詣も深く、旺盛な好奇心に舌を巻いたものだ。

ついにお会いできたのが3年前のかごしまアートフェスタで講演にいらした際。

写真と握手に応えていただいた感激は忘れられない。 東京五輪で音楽を担えるのは冨田氏!と思っていたが、神様はその贅沢を許さず、天上の音楽のために痺れを切らしたのだろうか。

 

 

最初に耳にして以来38年間、感動と憧れをありがとう。