水島一瀬  頑張る星崎君

 「今日は釣れそうな予感がする」
 釣り人は誰でもそんな自分に都合のいい、予感≠ニいう物を持っている。
 3月16日は、まさにその予感が私を水島へと向かわせた。
 
 しかし、そんな都合のいい予感という物は、いとも簡単に破られる物のようで場所決めのジャンケンで一番最初に負けてしまった。
 一緒に来ていた先輩は勝って4番目のポジションに入る事になった。
 先輩が4番目だからまあ良いか…と思って、ウロウロしているとインキョに高妻君がいたので一緒に釣りをさせてもらう事になった。
 ジャンケンに負けてインキョなら何も言う事はない。
 舟着けの2番には若い星崎君が入ったようで、元気一杯に竿を振っている。
 やがて、海中に撒き餌に群がるクロの姿が見え始めると、全員が「おおーいるいる」と感嘆の声を上げ始めた。
 これからが水島のクロ釣りの醍醐味を味わえる時間の筈なのだが、なかなか上手具合に事は運ばないようだ。
 「うーん、今一食いが悪いなー」
 と言う嘆きが入る釣り人もいる。
 
 私のいるインキョではウキグレが姿を見せていて、其処にウキを振り込むとパッと姿を消すが、しばらくすると再び潮目アタリに浮き上がってくる。
 まるでお著くられているような気分になる。
 それでも、ポツポツとだがクロが当たってくる。型は700〜900グラム程度の地グロだ。高妻君も着実に数を稼いでいる。
 表の先輩は初めての水島で、なかなか思うようにクロが当たらないみたいで苦戦のようだ。
 昼近くになると、徐々にだがアタリの数が減ったようで、みんな口数が少なくなっている。
 先輩も、「俺には釣れん。昼飯にする」
 と言って、しばしの休憩タイムとなった。
 インキョの方も、潮が上り気味になった割にはアタリが遠くなって、なかなか渋くなってきた。
 仕掛けを振り込んでから、アタリが出てクロが走るまでには随分と長い間待たなくてはならなくなってしまった。
 午後2時頃になると先輩が場所を譲ってくれたので、インキョから表に移動した。
 ここからが本日のメインイベントタイムとなった。
 船着けでは星崎君がクロを掛けるたびに「オリャ!」と気合いを入れて釣り場とクーラーの間を走って往復し始めた。
 竿も大きく煽って、横で見ているとこっちも楽しくなってきた。
 私にもクロが次々と当たり始めた。
 相変わらず星崎君は気合い満々で、クロを掛けては全力で走って若さで数を稼いでいる。
 私の隣の人達も次から次と竿を曲げて、一度に3人も4人も同時にクロがヒットしている。先輩はタモを持って、次々とクロを掬っている。
 いつの間にか私のクーラーもクロで満たされてきた。
 頑張っている星崎君は夫婦丸が迎えに来る直前まで、竿を振り続けて20数枚のクロを釣り上げていた。
 今日の水島は星崎君の気合いで楽しい1日になった。

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